研究課題
造血幹細胞の表面抗原を明らかにすることは造血幹細胞研究の進展のために重要であるが,マウスとヒトではその表面抗原に大きな差異があり,マウスの研究成果をヒトに応用する上での障壁となってきた。我々はEndothelial cellselective adhesion molecule(ESAM)という血管内皮関連抗原が、マウスにおいて造血幹細胞マーカーとして有用であることを発見した。さらにESAM が造血幹細胞の機能においても重要な分子であることも明らかにした。しかし,ヒトの造血幹細胞・白血病細胞におけるESAM の発現パターンやその意義については、これまでほとんど情報が得られていない。そこで本研究では,ESAM がヒトにおいても造血幹細胞マーカーとなり,さらには白血病研究の上でも有用な表面抗原となるかどうかを検討した。ヒトにおいて、骨髄・G-CSF 投与後の末梢血・臍帯血のいずれにおいても、CD34+CD38-細胞中のESAM高陽性分画に未分化な造血幹細胞が濃縮されており,この分画だけが免疫不全マウスへの移植実験で長期造血再構築能を示した。また,ヒト急性白血病患者検体のフローサイトメトリー解析では,急性リンパ性白血病ではESAM を発現する症例がみられなかったのに対して,急性骨髄性白血病では、多くの症例で腫瘍細胞上にESAM の発現が認められた。急性骨髄性白血病症例の中で,FAB分類上同型の白血病であっても、症例によってESAM の発現量は大きく異なっており,今後白血病細胞におけるESAM 発現の意義について、臨床経過とも絡めた詳細な検討が必要である。ヒト急性骨髄性白血病細胞株KG-1a を用いた検討では、マウスへの移植実験により,腫瘍細胞表面のESAM が白血病細胞の骨髄環境への親和性を促進することが示された。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題の最初の年であるが、ヒトの正常造血幹細胞と急性白血病細胞におけるESAMの発現とその意義に関してのデーターを集積し、学術論文として発表することができた。ESAMの発現調節に関わる分子メカニズムに関しては、未だ充分なデーターが得られていないが、ESAMのゲノム上のエピジェネティックな修飾に関して解析を開始しており、この観点における展開が大いに期待できる。以上の状況から、現在までの進捗状況はおおむね良好であると考える。
造血幹細胞増幅能力の異なる間葉系細胞間の遺伝子発現の違いを、マイクロアレイ法にて網羅的に解析することにより、造血幹細胞活性化に必要な分子と、その分子からの増殖シグナルの候補を見出す。さらに、野生型マウスとESAMノックアウトマウスに5-FUを投与し、回復期の造血幹細胞を採取して遺伝子発現の相違を解析する。あるいは、ESAMノックアウトマウスの胎児肝臓から造血幹細胞を抽出し、野生型の造血幹細胞の発現遺伝子と比較解析する。以上のデーターを総合して、ESAMの欠損により造血幹細胞内部で発現が変化する遺伝子と、間葉系細胞からの刺激で増殖が誘導された造血幹細胞において高発現する遺伝子の共通項を見出すことにより、細胞内シグナル伝達系の候補を絞り込む。ヒト急性骨髄性白血病細胞におけるESAMの機能に関しては、腫瘍細胞の骨髄への生着と増殖をESAMが指示していることを示す結果が得られている。そこで、ESAM発現が白血病細胞の骨髄への浸潤においてどのように機能するのかを評価するため、ESAM陰性・陽性細胞をそれぞれ蛍光標識してマウスに静脈内投与し、in vivo imaging system で動態を観測する。正常造血幹細胞では、まず血管内皮と接着し、骨髄実質に入った後適切なニッチに移動していくことが示されているが、これらの過程がESAM陽性白血病細胞でも踏襲され、正常造血幹細胞とニッチを競合するのかを調べる。またESAM陽性白血病細胞を免疫不全マウスに移植した後に、ESAMの機能を阻害する抗体や可溶性ESAM-IgH分子を投与し、白血病の発症率や致死率が低下するかどうかを検討する。
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Cancer Science
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