研究課題
本研究では白血病および様々な固形癌に過剰発現するWT1遺伝子の腫瘍細胞の代謝(解糖系およびRNA代謝-タンパク合成系)およびゲノム安定性維持における機能の分子学的機序を、WT1タンパクとそれらの経路において重要な役割を果たすbinding partnerとの相互作用に着目し、明確にすることを目的としている。解糖系におけるWT1遺伝子の機能の解析としては、WT1強制発現をした白血病細胞において、解糖系関連遺伝子A(仮称)が過剰発現していることを明らかにした。さらにWT1が転写因子として、解糖系関連遺伝子Aのプロモーターに直接結合しその活性を調節することで、A遺伝子の発現レベルを上昇させ、白血病細胞の解糖系の活性を増強しうることを明らかにした。WT1遺伝子のゲノム安定性の維持における機能については、これまでに明らかにしたWT1タンパクとゲノム代謝因子Xとの相互作用の詳細を明らかにするために、Xタンパクと結合するWT1の部分配列ペプチドのスクリーニングを行い、Xタンパクと結合しうるWT1の部分配列を同定した。さらに、この部分配列ペプチドをWT1発現白血病細胞に導入したところ、細胞死を誘導できることが明らかになった。これらの結果はXタンパクとWT1の相互作用もまた分子標的治療法の標的となりうることを示している。最後に、本研究で同定されるWT1タンパクとbinding partner の相互作用を標的とした白血病に対する分子標的治療法の開発のために、WT1結合タンパクの大腸菌での発現精製を行うとともに、WT1の部分配列ペプチドとWT1結合タンパクの結合阻害物質のスクリーニング系を検討し、感度・再現性ともにスクリーニングに用いるのに十分であることを確認した。また、WT1の新規アイソフォームを同定するとともに、WT1遺伝子発現の新規調節因子としてmiR-125aを同定した。
2: おおむね順調に進展している
本研究では WT1遺伝子の腫瘍細胞の代謝およびゲノム安定性維持における機能の機序を明確にすることを目的としている。まず、本研究ではWT1が転写因子として、解糖系関連遺伝子Aのプロモーターに直接結合しその活性を調節することで、A遺伝子の発現レベルを上昇させ、白血病細胞の解糖系の活性を増強しうることを明らかにした。これは白血病や固形癌の多くで過剰発現するWT1遺伝子の新たな癌遺伝子機能であり、学術的な意義は大きい。さらにWT1タンパクと解糖系因子のプロモーター領域への直接結合も明らかになった。これはデコイ核酸を用いたWT1タンパクとゲノムDNA配列の相互作用を標的とした新たな治療法の開発の可能性を示すものであり、本研究は順調に推移している。本研究の特色はWT1タンパクと腫瘍細胞の代謝やゲノム安定性の維持において重要な役割を果たすbinding partnerの相互作用に着目して、その詳細を明確にするとともにその相互作用を標的とした分子標的治療法の開発を目指すことにある。そのためには、生存に重要な役割を果たす、WT1タンパクと他の分子の相互作用を同定し、その阻害物質を明らかにする必要がある。本研究では代謝因子YとWT1の相互作用に加えゲノム代謝因子XとWT1の相互作用についてもWT1側の結合配列を同定できた。さらに、これらの知見をもとに、これらのWT1の結合配列と代謝因子Y、ゲノム代謝因子Xそれぞれの結合を阻害する分子のスクリーニング系をセットアップすることができた。これらはWT1とbinding partnerの相互作用を標的とする分子標的治療法の開発を進めるうえで必須のステップであり、この点からも本研究は順調に推移している。
「解糖系におけるWT1遺伝子の機能」についてはWT1タンパクが転写因子として解糖系因子Aのプロモーター領域へ直接結合し、その発現を増強している可能性が明らかになったため、デコイ核酸によりWT1タンパクとプロモーター領域の相互作用を抑制し、解糖系の活性を阻害できるか解析する。「RNA代謝ータンパク合成系におけるWT1遺伝子の機能」についてはWT1のタンパク合成系への関与を明らかにすることを目的とし、WT1の強制発現による、翻訳関連因子の発現量に変化がないか、解析する。また、これまでにWT1タンパクがポリソーム分画に局在しうることが報告されているが、WT1タンパクが特定の遺伝子のmRNAに結合し翻訳効率を増強していないか、解析する。「WT1の相互作用を標的とした分子標的治療法の開発」については標的とするWT1とタンパクX、タンパクYの結合阻害分子を同定することを目的に、これまでに同定したWT1タンパクの結合配列のペプチドとこれらのタンパクの結合阻害分子のスクリーニングを行う。スクリーニングに用いる分子としては、まずは低分子化合物ライブラリーを用いて探索する。目的の分子がヒットしたら、1) WT1タンパクとタンパクXおよびタンパクYの結合を阻害できることを、in vitro binding assay,IPの系で確認する、2) 該当低分子化合物でWT1発現および非発現がん細胞を処理し、WT1特異的に細胞死を誘導できるか検討する、3) ゲノム安定化因子タンパクXの機能を阻害できてるか、該当低分子化合物と抗ガン剤の併用による細胞障害活性の増強を検討する、4) 該当低分子化合物が代謝因子Yの機能阻害をできるか検討する。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 3件)
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