研究課題
本研究は、ヒトCD34陽性造血幹・前駆細胞を用いた、ゲノム編集による造血器腫瘍発症モデルを確立することを目的とし、遺伝子変異/遺伝子欠損の造血器腫瘍への関与を、ヒト造血細胞を用いて、より直接的に解明することを目指すものである。これまで、造血器悪性腫瘍の解析には、白血病細胞株や初代培養造血細胞、およびマウス(遺伝子改変マウス・骨髄移植モデル)が有用なツールとして汎用されてきた。しかしながら、細胞への変異遺伝子導入やマウス骨髄移植は、多くの場合、内在的な発現レベルを大きく超えた過剰発現系での解析となってしまうという問題点がある。また、腫瘍抑制因子の欠損を再現する場合には、shRNAなどを用いた発現抑制法が頻用されるが、この場合も必ずしも発現レベルの調節が容易ではない。こうしたことを背景に、本研究では正常ヒト造血幹・前駆細胞でのゲノム編集手法の確立を進めることとした。初年度はまず最適なベクターの構築を図るため、白血病細胞株を用いた基礎検討を行っている。当初、これまでに十分な経験を有するレトロウイルス系を用いることを想定してきたが、初代培養細胞への導入のため、並行してレンチウイルスベクターを用いた方法も検討している。一方、ゲノム編集の対象とする遺伝子は、最近造血器腫瘍で体細胞遺伝子変異と生殖細胞系列変異の両方が発見された、DDX41遺伝子を主なターゲットに据えることとした。本遺伝子の場合、生殖細胞系列変異としては主にフレームシフトが起こり、機能喪失型の変異に至ると想定される。一方、体細胞遺伝子変異はほぼp.R525Hに集中していることから、機能獲得型変異である。一部の症例では生殖細胞系列変異に体細胞遺伝子変異が加わることで腫瘍化が導かれることが判明しており、ゲノム編集による遺伝子破壊と変異遺伝子の強制発現を同時に行う良いモデルとなると考え、システム構築を進めている。
2: おおむね順調に進展している
研究申請後に所属大学の異動が生じ、新たに研究室を立ち上げることとなった。これに伴う準備にやや時間を要し、実験基盤の再構築に若干の遅れが生じたものの、年度内後半にはほぼ研究室の整備が終了し実験に注力したため、総体的には当初の達成目標に近いレベルに達することができたと考えている。次年度は、さらにベクター及び遺伝子導入手法の最適化を図り、より高効率のシステム構築を進める。
次年度は、白血病細胞株をモデルとしたゲノム編集手法の確立を終了し、これを応用した初代培養造血細胞でのゲノム編集に着手する予定である。DDX41 p.R525H変異単独の初代培養造血細胞への強制発現実験はすでに終了しているが、この変異は造血細胞の核小体ストレスを惹起し、リボソームの生合成を負にシフトさせ細胞増殖を抑制させた。また、この変異は単独では造血器腫瘍の発症は認められなかったので、片アレルの欠損ないし機能喪失と反対アレルの機能獲得の両者が鍵となっていることが疑われる。ゲノム編集システムの確立は本病態を再現するのに適しているため、DDX41遺伝子のゲノム編集を中心とした基礎検討を進めることとする。
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