研究課題
本研究は、ゲノム編集による造血器腫瘍発症モデルを確立することを目的とし、遺伝子変異/遺伝子欠損の造血器腫瘍への関与を、ヒト造血細胞を用いて、より直接的に解明することをめざすものである。これまで、造血器悪性腫瘍の解析には、白血病細胞株や初代培養造血細胞、マウスモデルが有用なツールとして汎用されてきた。しかしながら、細胞への変異遺伝子導入やマウス骨髄移植は、多くの場合、内在的な発現レベルを大きく超えた過剰発現系での解析となってしまうという問題点がある。また、腫瘍抑制因子の欠損を再現する場合に頻用されるノックダウン手法も、必ずしも発現レベルの調節が容易ではない。このため、遺伝子変異導入や発現抑制により起こる細胞表現型の変化を疾患と対比させて考える場合には、十分な注意が必要である。ノックアウトマウスモデルはこれを回避できる優れた実験系と言えるが、マウスモデルの作製には多くの専門的技術を要し、コストも無視できない。こうしたことを背景に、本研究では造血細胞に対するゲノム編集手法の確立を進めることとした。最適なベクターの構築を図るため、現在、白血病細胞株を用いた基礎検討を進めている。当初、レトロ・レンチウイルスによるベクター導入を実施してきたが、少なくとも細胞株においてはNucleofectorが最も簡便かつ効率的に遺伝子導入できることが判明したため、本装置を用いた実験系を構築している。一方、ゲノム編集の対象とする遺伝子は、DDX41遺伝子を主なターゲットに据えている。本遺伝子の場合、生殖細胞系列変異としては主にフレームシフトが起こり、機能喪失型の変異に至る。一方、体細胞遺伝子変異はほぼp.R525Hに集中していることから、機能獲得型変異である可能性が高い。今後、このふたつの変異を組み合わせたコンパウンドヘテロ細胞の作成と表現型解析を進め、実験手法開発を基軸とした病態解明をめざす。
2: おおむね順調に進展している
本研究申請後に所属大学の異動が生じ、新たに研究室を立ち上げることとなったため、スタート時期にやや遅れが生じたのは否めない。しかしながら、その後研究室の整備も進み、各種の実験が再開可能な状態になったため、2年目にはほぼ所期のペースで研究が進んでいる。最終年度には修士課程学生の入学が見込まれるので、さらにペースアップが期待できる。なお、研究開始当初はゲノム編集によるモノソミー7モデルの作成を計画していたが、2016年に我々が論文発表したDDX41遺伝子変異が、導入の容易さや病態解析の点でより適したターゲットと考えるようになり、現在は主な対象をこちらにシフトさせている。次年度は、さらにベクター及び遺伝子導入手法の最適化を図り、より高効率のシステム構築を進めるとともに、より導入困難な初代培養細胞でのゲノム編集を視野に入れる。
最終年度は、白血病細胞株をモデルとしたDDX41遺伝子のゲノム編集を確立し、当該遺伝子のノックアウトやノックインに伴う細胞表現型の解析に進む。DDX41遺伝子の体細胞変異(p.R525H)を血液細胞に導入すると、ある種のリボソームストレスが惹起され、細胞増殖の抑制が生じる。しかしながら、当該遺伝子変異のみをマウス骨髄移植(強制発現系)で導入しても白血病の発症には至らなかったことから、同遺伝子の生殖細胞系列変異(p.D140fsなど機能欠失型変異)との協調、もしくは他の遺伝子の体細胞変異との協調が必要であると考えられる。これを証明するため、DDX41遺伝子のノックアウトとp.R525H強制発現の両者を導入した細胞を作成し、細胞増殖や造腫瘍性などの表現型、および網羅的なエピゲノム変化などの分子生物学的解析を実施する。また、これに加えて初代培養造血細胞を用いたゲノム編集技術の確立にも挑みつづける。ゲノム編集の効率が低いこと、またゲノム編集後クローンの選択が難しいことなどが障壁となるが、ゲノム編集後の細胞をバルクで移植する実験を用い、クローン優位性などを検証することで研究遂行可能であると見込んでいる。
今年度は経費の節約ができたため未使用額が生じた。
次年度、試薬の購入に充てたい。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 図書 (1件)
Thromb. J.
巻: 15(8) ページ: -
10.1186/s12959-017-0132-6
J. Clin. Invest.
巻: 127(5) ページ: 1918-1931
10.1172/JCI91406
Leukemia.
巻: 31(11) ページ: 2303-2314
10.1038/leu.2017.59
巻: 31(4) ページ: 861-871
10.1038/leu.2016.268
PNAS
巻: 113(37) ページ: 10370-10375
10.1073/pnas.1600070113
Amyloid
巻: in press ページ: in press
10.1080/13506129.2016.1202228
Cancer Sci.
巻: 107(8) ページ: 1165-1168
10.1111/cas.12970
Exp. Hematol.
巻: 44(8) ページ: 745-754
10.1016/j.exphem.2016.04.017
Blood
巻: 128(5) ページ: 638-649
10.1182/blood-2016-01-694810