研究課題
成人T細胞性白血病・リンパ腫(ATLL)に対する化学療法の効果は限定的であり、治癒を得ることは極めて困難である。治療成績向上のためには疾患の本態とその進行・増悪過程に関する遺伝子レベルでの解明が必須である。本研究では、網羅的な遺伝子解析を実施し、ATLL細胞に認められる遺伝子異常の完全なカタログを作成した。その結果、ATLLでは計50個の遺伝子で有意に変異が認められ、そのうち13個の遺伝子が10%以上の症例に変異を認めることを明らかとした。これらの遺伝子変異の中にATLL発症に重要なドライバー変異が含まれていると考えられる。13個の遺伝子のうちエピゲノム制御遺伝子TET2は骨髄系およびリンパ系双方の造血器腫瘍の発症メカニズムに強く関与するとして注目されている。昨年度、我々は網羅的解析に用いた患者集団とは別のATLL患者コホートを対象として、TET2変異の有無を解析し、同変異が一定の比率で生じていることを再確認した。本年度は、ATLLの発症過程における、同変異の役割を明らかにすることを目的に、臨床検体とマウスモデルの両面から解析を行った。臨床検体解析としては、キャリア時、初発時、再発時、といった経時的検体を用いた遺伝子解析に着手し、6例の解析を行った。また、マウスモデル解析としては、これまでATLLマウスモデルとして標準的に用いられているHTLV-1ウイルス遺伝子HBZのトランスジェニックマウスの解析に加えて、HBZトランスジェニックマウスとTET2欠損マウスを交配することにより作成したHBZ/TET2 2重変異マウスの解析を行い、TET2変異の病態形成に及ぼす影響を、FACS解析、病理解析、リンパ腫の発症時期および発症頻度に注目し検討した。
2: おおむね順調に進展している
経時的な臨床検体を用いて、網羅的な遺伝子変異カタログを基にした標的シークエンスを行い、ATLLのクローン進化解析に着手した。経時的解析を6例で行い、1例において発症時に認められるTET2変異が、キャリア時において既に認められることを明らかにした。このことからTET2変異が疾患の経過を通して保存される変異、すなわちドライバー変異の1つである可能性が示唆された。また、HBZトランスジェニックマウスとHBZ/TET2 2重変異マウスの病態を比較し、TET2変異が加わることで、リンパ腫の発症頻度の増加や発症時期の早期化が生じることを明らかにした。臨床検体およびマウスモデルの両面からの解析から、ATLLにおけるTET2変異の役割が明らかになりつつある。
経時的な臨床検体の集積やマウスモデルの交配・解析は順調に進展している。今後は、経時的解析の推進、およびHBZやTET2変異と、ATLL病態の中心と考えられるT細胞受容体シグナリング/NF-κB経路の活性化との関連に注目した、in vitro、in vivo解析を行い、ATLLの発症ならびに病態形成のメカニズム解明を試みる。
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