研究課題
1.昨年度までに行った次世代シーケンサーによるRNAシーケンスのデータ解析から、びまん性大細胞型リンパ腫細胞株KPUM-UH1において隣り合った遺伝子間での融合遺伝子(conjoined gene)を17種同定した。このうち11種は新規のものであり、6種はin-frameでの融合であった。また、12種は他の臨床検体でも検出することができた。Conjoined geneは近年注目されている新しいタイプの融合遺伝子であるが、現在そのゲノム構造異常との関係およびリンパ腫発症における役割について検討している。2.白血病検体を用いてのRNAシーケンスでは、これまで染色体異常から予想されたキメラ転写産物の同定には至らなかった。もともとキメラ遺伝子を形成しないタイプの染色体異常であった可能性も考えられ、今年度はMLLやNUP98などの関与が明らかになっている新たな6検体の解析を計画した。しかし、いずれもRNAの質が非常に悪いことが判明したため、質の悪い検体におけるRNAシーケンスの検出感度を確認するために、検体の半分の3検体をキメラ遺伝子が判明している検体とし、それらを陽性コントロールに位置づけて他の3検体の新規のキメラ遺伝子の同定を試みた。その結果、RIN値7.0の検体および3.4の検体では、それぞれ既知のNUP98-HOXA9およびMLL-ENLを同定でき、非常に質の悪い検体でも十分RNAシーケンスによるキメラ転写産物の同定が可能であることが明らかになった。しかし、同じくNUP98-HOXA9が判明しているRIN値2.9の検体では、キメラ転写産物を同定することはできなかった。その他の未知の検体のRIN値は6.6、5.1、4.8であったが、染色体異常に合致するキメラ遺伝子は同定されず、現在さらに詳細な解析を続けている。
2: おおむね順調に進展している
今年度の当初の計画のうち、各種腫瘍におけるPVT1、NSMCE2、RN28S1再構成の解析は十分進めることができなかったが、一方で、当初予想していなかったconjoined geneについての興味深いデータが得られた。また、RNAシーケンスによる新規のキメラ遺伝子の同定については、質の悪い検体を用いての次世代シーケンス解析を行う条件についての手がかりが得られつつあり、全体として概ね順調に研究が進んでいると考えている。
ゲノム高度増幅領域内で形成されるキメラ遺伝子の同定 については今年度に引き続き1)ゲノムアレイ法によるゲノム高度増幅領域の探索、2)RNAシーケンスによる未知のキメラ転写産物の同定、3)同定したキメラ転写産物を手がかりとしたゲノムレベルでの融合点の同定 を行う。それに加えて、4)高度ゲノム増幅形成に関与するゲノム構造異常の階層性および進展の仕組みの解析を行う。これらに際しては、今年度同定したconjoined geneのようなユニークな構造の未知のキメラ遺伝子が他にも存在する可能性を考慮して、RNAシーケンスのデータをより詳細に検討し、それぞれのキメラ遺伝子の正確なゲノム構造を明らかにする。
試薬の購入計画に変更が生じたため
残額の6,615円は消耗品代として使用する。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件)
Genes Chromosomes Cancer
巻: 54 ページ: 409-417
10.1002/gcc.22252
Pediatr Blood Cancer
巻: 62 ページ: 2021-2024
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