研究課題/領域番号 |
15K09490
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
木崎 昌弘 埼玉医科大学, 医学部, 教授 (20161432)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 多発性骨髄腫 / 活性酸素 / シグナル伝達機構 / 細胞死 / 前駆細胞 / NF-κB / Wnt/β-catenin |
研究実績の概要 |
概要 多発性骨髄腫は治癒の難しい造血器腫瘍であるが、その分子病態に関する解析研究が進歩し、骨髄腫細胞の増殖に必要なシグナル伝達機構についての理解が進んできた。特に、転写因子NF-κBや骨髄間質細胞から産生されるIL-6, VEGFなどの造血因子は骨髄腫細胞の増殖に必須である。これらの転写制御に活性酸素(ROS)が関与していることが知られているが、ROSを介する転写因子や造血因子産生を制御することは多発性骨髄腫の根治を目指した新たな治療法開発に直結する重要な意義を有する。本研究は、生体侵襲の少ない生理活性物質などを用いてROSを介するヒト骨髄腫前駆細胞を標的にした新たな治療法を開発し、多発性骨髄腫の治療成績向上の基盤となることを目的とした。 これまでに、われわれは新たなNF-κB阻害活性を有する化合物TM-233を東南アジアに自生する植物の根茎より抽出した1'-acetoxychavicol acetate (ACA)を構造展開することで合成した。今年度は、TM-233およびWnt/β-catenin, NF-κB, JAK/STATなどのシグナル伝達阻害物質の骨髄腫細胞および前駆細胞に及ぼす影響について検討した。 本研究においては、最終的に生理活性物質を中心とした新たな骨髄腫治療の候補となる化合物を探索することも目的とするため、骨髄腫細胞の増殖に必須のシグナルを阻害した際の骨髄腫細胞の動態解析とROSとの関連にも注目し、その候補化合物を明らかにした。また、臨床的には大きな問題となっているプロテアソーム阻害薬ボルテゾミブ耐性のメカニズムの一端とTM-233による耐性克服の可能性について明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
理由 本研究は多発性骨髄腫の根治を目指した新たな治療法開発を目的とするために、治療の直接の標的となるのは骨髄腫前駆細胞である。骨髄腫前駆細胞を分離する系に関しては確立されたが、一般に骨髄腫前駆細胞の占める割合が極めて低いため、前駆細胞を用いた生理活性物質を用いた増殖制御機構やシグナル伝達機構の解析が遅れている。この点を克服するには骨髄腫前駆細胞の増幅方法を明らかにする必要があるが、前駆細胞の形質を維持したまま増幅する技術開発にはなお時間を要する。 上記技術開発を進めるとともに、種々の骨髄腫細胞株および患者骨髄腫細胞を用いての解析研究を進めている。その結果、われわれが合成した新規NF-κB阻害物質TM-233はNF-κBおよびJAK/STAT系を阻害することにより強力に骨髄腫細胞の細胞死を誘導するとともに、ボルテゾミブ耐性細胞に対してもキモトリプシン様活性およびカスパーゼ活性を抑制し、耐性細胞の細胞死を誘導することを見出した。また、骨髄腫細胞の増殖に重要な役割を果たすWnt/β-cateninシグナルを特異的に阻害するICG-001を用いて検討したところ、c-Myc, survivinの発現低下を関して、ボルテゾミブ耐性細胞の細胞死が誘導された。また、T-LAK cell-originated protein kinase (TOPK)を特異的に阻害することにより、ボルテゾミブ感受性骨髄腫細胞のみならず耐性細胞の増殖を抑制し、細胞死を誘導することを明らかにした。興味深いことに、TOPK阻害薬は骨髄腫治療に大きな貢献を果たしている免疫調節薬レナリドミド耐性細胞に対しても、低濃度でその細胞死を誘導した。これらの結果は、当初予想していなかったものであり、今後もその分子作用機構の解明やROSとの関連性についての検討を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後 現状では、骨髄腫細胞株および患者骨髄腫細胞より確実に骨髄腫前駆細胞を分離し、その増幅方法を確立することが取り組むべき重要な課題である。同時に、これまでの研究で明らかにしてきたTM-233や種々の骨髄腫細胞のシグナル伝達阻害による治療法開発に関する分子作用機構の解明などの基礎検討を骨髄腫細胞株および患者細胞を用いて同時に推進していく予定である。細胞株や患者細胞で得られた研究成果を骨髄腫前駆細胞に応用していく予定である。さらに、これらの作用機構におけるROSの関与も明らかにしていく予定である。また、今年度の研究を推進する過程で、多発性骨髄腫細胞の増殖制御におけるWnt/β-catenin系シグナルおよびTOPKの重要性を確認しているので、NF-κBシグナルとのクロストークや既に臨床応用されているプロテアソーム阻害薬や免疫調節薬との併用効果なども含め、詳細な分子作用機構について明らかにしていく方針である。
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