研究課題/領域番号 |
15K09492
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研究機関 | 愛知県がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
都築 忍 愛知県がんセンター(研究所), 遺伝子医療研究部, 室長 (00342965)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 悪性リンパ腫 / 遺伝子変異 / CARD11 / BCL6 |
研究実績の概要 |
悪性リンパ腫・骨髄腫は、血液系腫瘍の過半数を占め、近年の治療法の進歩にもかかわらず、予後不良である。近年の遺伝子解析技術の進歩により、申請者らの報告も含め、悪性リンパ腫・骨髄腫において高頻度で起きる遺伝子異常が、数多く報告されている。しかし、このように多くの異常遺伝子のうちでどの組み合わせが腫瘍の発生や維持に重要なのかは不明で、今後この点を明らかにすることが求められている。 現状でこの点を明らかにするには、各々の遺伝子異常を有する遺伝子改変動物を作成して交配することにより複数の遺伝子異常を有する動物を作成する方法がとられているが、労力・費用・時間の点で難しい。私たちはレトロウイルスによる遺伝子導入法とイン・ビトロでの分化誘導法、マウスへの移植を組み合わせて、迅速に多数の組み合わせを可能にするハイスループットシステムを独自に開発して報告した。本研究は、独自のハイスループットシステムを応用することによって難治性の悪性リンパ腫・骨髄腫の成立・維持機構の解明を目指すものである。本年度は予後不良の悪性リンパ腫である、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫について、CARD11遺伝子変異による悪性リンパ腫の成立機構を解析した。その結果、CARD11遺伝子変異単独では腫瘍は発生せず、他の遺伝子との協調が必要であると考えられた。そこで、公開されている臨床検体データを調べることで、CARD11変異にはBCL6やBCL2の発現異常が伴う場合が多いことがわかった。そこで、CARD11変異・BCL6・BCL2の3者の協調作用を私たちの系で調べると、3者協調により迅速に悪性リンパ腫が発生することが明らかとなった。さらに、悪性リンパ腫発症にはCARD11変異・BCL6の2者導入で十分であり、BCL2は不要であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CARD11変異・BCL6・BCL2の3者の協調作用を私たちの系で調べた結果、3者協調により迅速に悪性リンパ腫が発生することが明らかとなった。興味深いことに、悪性リンパ腫発症にはCARD11変異・BCL6の2者導入で十分であり、BCL2は不要であることが示唆された。 しかし、DNA解析を詳細に行うと、発生した腫瘍はポリクローナルではなく、モノクローナルあるいはオリゴクローナルであることからCARD11変異・BCL6以外の、予期しなかった遺伝子異常が自然に起きてリンパ腫発症に至った可能性がある。しかし、体細胞高頻度突然変異は起きておらず、その機構は現時点では不明であり、今後の課題であるものの、研究自体はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
CARD11変異とBCL6の組み合わせ以外にも、悪性リンパ腫臨床検体解析で報告されている遺伝子異常は多岐にわたっている。検体解析の結果、同一症例で重なって起きている遺伝子異常は協調して機能している可能性が高く、今後はそうした遺伝子異常の組み合わせの、悪性リンパ腫発症における機能的意義を、私たちのモデル系で明らかにする。さらに、マウスモデルを応用して治療実験を行い、有用な抗がん剤の組み合わせや、抗がん剤耐性における微小環境の影響を調べる。骨髄腫についても同様の手法を適用する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、悪性リンパ腫の原因遺伝子CARD11とBCL6の協調作用について解析を行った。 予想に反して、この2つの遺伝子の協調により、高率かつ早期にリンパ腫が発症することが判明したために、予定していた種々の予備実験を行う必要が最小限で済んだ。このことが予定額より少額で済んだ理由である。ただし、今後進めていく、他の遺伝子の組み合わせの腫瘍原生の探索には、種々の予備実験が必要である可能性が高いので、次年度以降に繰り越された予算を有効かつ最大に使用していく。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度以降に進めていく、他の遺伝子の組み合わせの腫瘍原生の探索には、種々の予備実験が必要である可能性が高いので、繰り越された予算を有効かつ最大に使用していく。 まず、細胞培養系での予備実験を行い、マウスの系で検証し、その後に悪性化機構を解析するために遺伝子発現やノックダウン実験、パスウエイ解析とその検証を行う。細胞培養用試薬・プラスチック材・マウス・遺伝子解析用試薬などを購入する必要があり、予算を有効に使用する。
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