研究課題
再生不良性貧血のような自己免疫性の造血不全患者では、GPIアンカー膜蛋白が欠失したPNH形質の血球がしばしば検出される。この機序として、PIGA遺伝子変異造血幹細胞の造血抑制因子に対する感受性が、GPIアンカー膜蛋白欠失のため低下していることが考えられる。この仮説を検証するため、TGF-βのco-receptorであるCD109分子の役割を検討した。CD109はヒトCD34陽性細胞の一部に発現しているが、今回、ヒト臍帯血を用いて、CMP、GMP、MEPの各造血前駆細胞にも発現していることを確認した。また、臍帯血由来のCD34陽性細胞をTGF-βで刺激することにより、リン酸化SMAD2の発現増強がPhospho Flowで検出できることを確認した。GM-CSF依存性の骨髄性白血病細胞株TF-1は、TGF-βによって増殖が抑制されることから、この細胞におけるCD109分子のノックダウンを試みた。当初siRNAを用いたところ、CD109の部分的な発現低下は認められたが、完全欠失細胞は得られなかった。このためCRISPR/Cas9システムを用いたところ、CD109の完全欠失細胞が得られた。また、in vivoにおけるCD109の役割を明らかにするため、C57BL/6Jslc野生型マウスの造血幹細胞分画におけるCD109発現を検討した。マウスのCD109をフローサイトメトリーで検出するためのよい抗体が入手できなかったため、野生型およびCD109 KOマウスの骨髄からLSK、CD34(-)LSK、CD34(+)LSK、GMP、MEPにおけるCD109発現をRT-PCR法により検討した。その結果、CD109遺伝子発現は成熟血液細胞では認められたが、造血幹細胞および造血前駆細胞ではみられなかった。このため、CD109はマウス造血幹細胞の静止期維持には関わっていないことが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
臍帯血由来のCD34陽性細胞を用いた予備実験で、TGF-β刺激によって誘導されるリン酸化SMAD2を安定して検出できるPhospho Flowアッセイを確立した。CRISPR/Cas9システムにより、CD109KO TF-1細胞が樹立できることを確認した。ただし、同時に作成したmock-transfected TF-1の増殖が得られなかったため、TGF-βに対する感受性やリン酸化SMAD2の誘導を正確に評価することは困難であった。このため、再度野生型TF-1細胞からtransfectionを行っている。一方、in vivo実験については、マウスの造血幹・前駆細胞にCD109発現を確認できなかったため、当初計画していたCD109KOマウスにおける造血能を野生型マウスと比較する実験は断念した。当初計画したマウス造血前駆細胞を用いるコロニーアッセイや造血幹細胞移植実験も行わない予定である。また、ヒトiPS細胞から、CD34陽性細胞を約50%含む造血前駆細胞分画を誘導する系を確立した。これらのiPS細胞由来造血前駆細胞におけるCD109発現とその機能も今後解析する予定である。
CD109KO TF-1細胞が得られることが分かったため、mock-transfected TF-1細胞を含めた新しいトランスフェクタントが得られ次第、当初の計画通り、TGF-β刺激後のリン酸化SMAD2誘導、細胞増殖抑制効果、細胞周期抑制効果などを、KO細胞と対照細胞との間で比較する。iPS細胞から誘導した造血前駆細胞におけるリン酸化SMAD2誘導を、CD109陽性細胞と陰性細胞との間で比較する。新規のPNH患者を対象として、PNH型および非PNH型(正常)CD34陽性細胞およびCD34陽性細胞サブセットにおけるリン酸化SMAD2誘導を、Phospho Flowを用いて比較する。
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