研究課題
再生不良性貧血に代表される自己免疫性の造血不全患者の末梢血中には、glycosylphosphatidyl inositol(GPI)アンカー膜蛋白が欠失した発作性夜間ヘモグロビン尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria; PNH)形質の血球がしばしば検出される。この機序として、PNH形質の血球を産生するPIGA遺伝子変異造血幹細胞ではGPIアンカー膜蛋白が欠失しているために、造血抑制因子に対する感受性が低下していることが考えられる。この仮説を検証するため、昨年度に引き続き、TGF-βのco-receptorであるCD109分子の役割を検討した。まず、TGF-βによって増殖が抑制されるGM-CSF依存性の骨髄性白血病細胞株TF-1をベースとして、CRISPR/Cas9システムにより、CD109KO TF-1細胞と、コントロールとして比較するためのmock-transfected TF-1細胞を樹立した。次に、MTTアッセイを用いて、両細胞の増殖能を比較した。造血抑制因子であるTGF-βの刺激により、mock-transfected TF-1細胞の増殖は56%±2%抑制されたが、CD109KO TF-1細胞では37%±2%しか抑制されず、CD109をノックアウトすることによって、TGF-β刺激による細胞増殖抑制効果を減弱させ得ることが示された。更に、両細胞を用いて、昨年度に確立したPhospho Flowによるリン酸化SMAD2発現レベル(MFI)の比較を行った。Mock-transfected TF-1細胞ではTGF-β刺激後のリン酸化SMAD2の誘導が9.8±2.4みられたが、CD109KO TF-1細胞では7.6±1.7まで低下しており、CD109をノックアウトすることによって、TGF-β刺激後のリン酸化SMAD2発現が低下することが示された。以上から、CD109の欠損は、造血抑制因子であるTGF-βの感受性を低下させることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
CRISPR/Cas9システムにより、CD109KO TF-1細胞とmock-transfected TF-1細胞を樹立した。MTTアッセイを用いて、CD109KO TF-1細胞とmock-transfected TF-1細胞とのTGF-β刺激による細胞増殖抑制効果を比較した。更に、両細胞でのTGF-β刺激後のリン酸化SMAD2の誘導を比較した。なお、現在、限界希釈法を用いて、これらの細胞の純化を試みている。また、ヒトiPS細胞から、CD34陽性細胞を約50%含む造血前駆細胞分画を誘導する系を確立した。これらのiPS細胞由来造血前駆細胞におけるCD109発現とその機能も今後解析する予定である。
CRISPER/Cas9システムでCD109をノックダウンさせたTF-1細胞はTGF-β刺激による細胞増殖抑制効果が減弱していたので、この細胞にCD109をノックインすることで細胞増殖抑制効果が回復するか否かを確認する。iPS細胞から誘導した造血前駆細胞におけるリン酸化SMAD2誘導を、CD109陽性細胞と、CD109をノックダウンした陰性細胞との間で比較する。新規のPNH患者を対象として、PNH型および非PNH型(正常)CD34陽性細胞およびCD34陽性細胞サブセットにおけるリン酸化SMAD2誘導を、Phospho Flowを用いて比較する。CD109を介したTGF-β刺激が、TF-1細胞、およびiPS細胞由来CD34細胞のアクチン重合に影響を及ぼすか否かを、ファロイジン染色によって評価する。
すべて 2016
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