造血器腫瘍に対するHSV-1ウイルス療法の臨床応用を目指し、造血器腫瘍細胞株を対象に、G47Δと同様の遺伝子改変を施したHSV-1であるT-01の感染と殺細胞効果の有無を調べたところ、14種類の造血器腫瘍細胞株中10細胞株で直接的な殺細胞効果を示した。感受性細胞と抵抗性細胞の違いを明らかにするために、細胞株上のHSV-1レセプターの発現レベル、GFP導入T-01のエントリー量、殺細胞効果の三者の相関を調べたところ、nectin-1の発現レベル、T-01のエントリー量、殺細胞効果の三者に定量的な正の相関関係がみられた。これに一致して、nectin-1のノックダウン細胞においてT-01のエントリー量が減少し、nectin-1陰性細胞へのnectin-1強制発現によって殺細胞効果が付与された。一方、HSV-1レセプターHVEMの発現レベルとT-01のエントリー量に相関はみられなかった。また、cGAS-STING経路、PKR-eIF2 alpha経路の発現やIFN-beta産生能と殺細胞効果にも相関はみられなかった。 Nectin-1を発現しないヒトバーキットリンパ腫細胞株Ramosにヒストン脱アセチル化酵素阻害薬panobinostatを加えるとnectin-1の発現が誘導された。 以上より、造血器腫瘍におけるHSV-1の殺細胞効果は、nectin-1を介したエントリーに強く規定され、nectin-1の発現が有効性のバイオマーカーになると考えられた。一方、腫瘍細胞自体の抗ウイルス免疫機構は殺細胞効果に大きな影響を与えないと考えられた。さらに、エピジェネティックな遺伝子発現制御によりnectin-1の発現を誘導し、HSV-1ウイルス療法の適応症例を拡大できる可能性が示唆された。
|