研究課題
高齢化社会の進展とともに増加している急性骨髄性白血病・骨髄異形成症候群に対し、新たな治療法として期待される腫瘍抗原特異的T細胞受容体(T-cell receptor: TCR)遺伝子改変T細胞(TCR-T細胞)を用いる細胞免疫療法の開発は進んでいない。我々は独自の高性能TCR遺伝子発現ベクター(siTCRベクター)を用いて白血病抗原WT1を日本人に最も頻度の高いHLA-A24拘束性に認識するTCR-T細胞療法臨床試験を実施しこの4月で患者登録を終了した(UMIN 0001159)。本試験患者の解析に際してヘルパーCD4+T細胞に認識される新規白血病抗原Kif2cを同定し現在解析を続けている。並行した基盤研究として、白血病抗原WT1特異的細胞傷害性CD8+T細胞(CTL)から単離したTCR遺伝子をCD4+T細胞に導入したユニークなHLAクラスI拘束性WT1特異的ヘルパーT細胞を作成して前臨床試験を行い、白血病細胞を認識して多彩なヘルパー機能を発揮しCTLと共同してより高い抗白血病効果を達成出来る事を見出し論文発表した。現在、様々な白血病抗原特異的ヘルパーCD4+T細胞の樹立と臨床応用に向けた研究を続けている。加えて、腫瘍抗原抗原オーロラキナーゼAをHLA-A2拘束性に認識するTCR遺伝子をsiTCRベクターに搭載した高性能TCR発現ベクターを新たに開発し、その抗白血病効果を検討した(論文投稿中)。白血病に対する細胞免疫療法のもう一つの手段であるキメラ型受容体遺伝子導入T細胞(CAR-T細胞)の研究も行っている。現在、臨床的に利用可能な全ての癌治療用モノクローナル抗体を利用できる万能型CAR-T細胞を開発し前臨床試験結果を論文発表した。現在、CAR-CD4+T細胞の検討、白血病抗原特異的TCR遺伝子を同時に導入したより強力なエフェクターCD8+T細胞等の開発を進めている。
2: おおむね順調に進展している
白血病抗原特異的CD4+T細胞に認識されるHLAクラスII拘束性エピトープの情報は限られている。そこで既知のHLAクラスI拘束性WT1エピトープ特異的TCR遺伝子を導入したユニークな1型ヘルパーCD4+T細胞(WT1-siTCR-Th1)を作成した。この細胞はケモカインCXCL12を介して骨髄性白血病幹細胞が生存する骨髄ニッチへ移行した。加えて、エフェクターCD8+T細胞(WT1-siTCR-CTL)のメモリー細胞への移行を促進し、結果その生存を延長させより強い抗白血病効果を誘導した。このユニークなWT1-siTCR-Th1の活用がより有効な抗白血病性細胞免疫療法の開発に寄与することを示した(英文原著5)。同時に我々は、WT1-siTCR-T細胞療法の臨床試験を実施し臨床データを検討している。また、共同研究として、患者体内により長期間に渡って抗白血病性T細胞を維持する方法として、WT1特異的TCR遺伝子を導入した自己造血幹細胞移植の可能性を検討した(英文原著2)。我々は、既存の抗体を利用できるCAR-T細胞の開発も進めている。新たに作成したIgGのFc部分への結合能を高めた改変型FcγRIIIa-CD3ζキメラ遺伝子を導入したT細胞を用いて、成人T細胞白血病に対するmogamulizumab抗体をモデルに、抗がん剤治療に必発するリンパ球減少に起因する抗体療法の効果減弱に対する解決法として提案した(英文原著1)。次の段階は、TCRとCARのハイブリッドである腫瘍抗原エピトープ・HLA複合体を認識するCAR遺伝子を導入した、高活性型ヘルパーCD4+T細胞(ヘルパーCAR-CD4)を作成しその機能を検討する。現在、遺伝子改変T細胞への免疫チェックポイント分子の影響も合わせて検討しており、より有効な複合免疫療法開発に向けたPOCを得ることを試みる。
本研究2年目に当たる今年度は、より一層の白血病特異的CD4+T細胞シーズの拡大を進める。第一に、骨髄性白血病幹細胞を認識できるネオ・アンチゲン特異的CD4+T細胞の樹立を試みる。遺伝子変異が比較的限定されている骨髄性疾患を対象として、遺伝子変異を含む抗原ペプチドプールを作成し、該当するHLAを持つ患者末梢血リンパ球のIFN-γ産生応答を指標にスクリーニングする。同時に既知のdriver変異を含む抗原エピトープを対照に実験系のバリデーションを進める。この目的の為の細胞株、患者検体、患者細胞の遺伝子変解析は終了している。第二に、HLAクラスI拘束性TCR遺伝子導入CD4+T細胞研究を発展させて、新たに抗原エピトープ・HLA複合体を認識するモノクローナル抗体から作成したCAR遺伝子を導入したCAR-CD4+T細胞の樹立を試みる。モノクローナル抗体作成は技術指導の同意を得ている。この分野は抗体療法への応用が可能であり新規性が高い。加えて、質量分析法を用いて白血病細胞株及び患者細胞膜蛋白上のHLAクラスIに結合して提示される腫瘍抗原を検索する。ここから新たに見出したシーズを認識するCAR遺伝子を導入したCAR-CD8+T細胞とCAR-CD4+T細胞を作成しその機能を解析する。モデルとするCAR遺伝子は既に作成済みである。高親和性CAR遺伝子を得る方法は、CD8を持たないJurkat細胞に遺伝子導入して抗原認識によるサイトカイン産生を指標に選択するが、新たな技術開発も開始した。これら研究から、前者は、様々な内因性白血病抗原に反応するCD8+T細胞を誘導することを目的としたアジュバント細胞ワクチン的CD4+T細胞として、後者はより適応範囲の広い細胞内腫瘍抗原を標的に出来るCD4-CAR-T細胞として、CD8-CAR-T細胞と共にネットワーク輸注を行う細胞製剤としての開発を目指す。
In vivoイメージングを用いたマウスの治療実験が、予定していた数より少ない数で終了しえたことに加えて、研究進展に伴う遺伝子導入試薬、免疫応答関連試薬、ベクター開発関連試薬の購入のタイミングが年度末に掛り、物品納入時期も考慮して次年度早々の手続きとしたため結果として次年度使用額が生じた。
研究計画の内容に従って、ベクター開発、細胞培養関連、遺伝子導入試薬、NOGマウス購入と飼育、in vivo imaging実験の費用に研究費を充てる。また、現在得られた結果を、学会等で成果を発表する旅費や国際雑誌に論文発表する経費等にその一部を充てる。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (18件) (うち国際学会 5件、 招待講演 5件)
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