研究課題
多施設共同の前方視試験に登録された症例を、IgG4関連疾患診断のアルゴリズムに当てはめ、確定群、擬診群、準確診群、否定群に分けるとともに、疾患、臓器別にカテゴライズを行った。本研究の対照については、性差、年齢差の影響を考慮し、IgG4関連疾患で多くを占める50~60歳代男性とし、治療前、治療後、健常人コントロールの血清それぞれ10例準備し、3群間、n=10例で、治療前・後、患者・健常人間での解析を行った。解析については、メタボロン社のライブラリーに登録された代謝物(分子量約50~1000の糖・アミノ酸・核酸・脂質等)を解析対象とした。解析の結果、IgG4関連疾患群では、起炎性の脂質メディエーターであるアラキドン酸(arachidonate(20:4n6)), 12-HETEが健常人群に比べ、治療前・治療後とも高い値を示した。また、その値は、ステロイド治療後でも、低下しなかった。IgG4関連疾患は、ステロイド治療により症状は著明に改善するが、ステロイド治療を中止すると高率に再発することが知られている。ステロイド治療で症状は改善しても、その根本的な原因は潜在していると考えられる。起炎性の脂質メディエーターが、IgG4関連疾患群で高値を示し、またその値は、ステロイド治療によって変動しないことから、これらの起炎性メディエーターが、IgG4関連疾患の炎症の遷延化に関連することが考えられた。この結果を踏まえ、脂肪酸代謝系の内、炎症に寄与するn-6系のアラキドン酸由来起炎性メディエーターを網羅的に解析した。
3: やや遅れている
IgG4関連疾患患者の治療前後、また、健常人血清を用い、IgG4関連疾患の疾患特異的に変動する代謝物群のパターン解析を行い、疾病により増減するバイオマーカー探索を行った。多価不飽和脂肪酸は、シクロオキシゲナーゼや、リポキシゲナーゼなどの酸化酵素によって活性代謝物に変換され、これらは脂質メディエーターとして様々な生体調節機能を担っている。今回の解析で、IgG4関連疾患では、アラキドン酸や12-HETEといった、いくつかの起炎性メディエーターが、健常人群に比べ高い値を示し、また、ステロイド治療後でも、その値が変動しないことを見いだした。IgG4関連疾患は、ステロイド治療により症状は著明に改善するが、ステロイド治療を中止すると高率に再発することが知られている。ステロイド治療で症状は改善しても、その根本的な原因は潜在していると考えられる。起炎性の脂質メディエーターが、IgG4関連疾患群では高値を示し、ステロイド治療によって変動しない点は、IgG4関連疾患の持続する免疫異常により炎症が遷延するという慢性炎症性疾患の一因とも考えられる。炎症の遷延化には、炎症を促進する「起炎性脂質メディエーター」と、炎症の制御に関与する「抗炎症性脂質代謝物」のバランスとその制御が重要な役割を果たしていると考えられている。IgG4関連疾患の炎症の「発生と収束」に関わる脂質メディエーターとそのバランス制御を明らかにするため、IgG4関連疾患群で高値を示したアラキドン酸由来の起炎性および抗炎症活性を有するn-6系のアラキドン酸由来起炎性メディエーターを網羅的に解析した。現在、得られた結果をパスウエイデータベースIngenuity Pathways Analysis (IPA)に落とし込み、転写・代謝プロファイルを作成し、代謝機能による分類を行っている。
IgG4関連疾患は、アレルギー疾患の併発を特徴とし、持続する免疫異常により炎症が遷延するという慢性炎症性疾患である。炎症反応は、外傷や感染症などに対する重要な生体防御系であるが、一方で、局所で発生した炎症は、速やかに収束させなければいけない。この炎症反応の収束・調節の機構が、正常に機能していない状態が慢性炎症と言える。脂質メディエーターには、今回のアラキドン酸由来のエイコサノイドのように起炎性に働くものもあれば、一方で、脂肪酸代謝物には、リポキシン、レゾルビン、プロテクチンなどの強い抗炎症作用を持つものがあり、それぞれが炎症反応の調節にかかわっていると考えられている。IgG4関連疾患の遷延する炎症のメカニズムと、その制御を解析するため、IgG4関連疾患群における脂肪酸代謝系と炎症の制御について、さらなる解析を進める。また、今回、IgG4関連疾患患者群(治療前)・治療後、患者・健常人間での解析を行った。現在、得られたデーターを、パスウエイデータベースIngenuity Pathways Analysis (IPA)に落とし込み、転写・代謝プロファイルを作成し、代謝機能による分類を行っている。得られた結果について、メタボローム以外の実験による検証とバリデーションを行い、IgG4関連疾患の病因病態につながる因子の解析を行う。
これまで得られた結果から、我々は、IgG4関連疾患の病因病態には、炎症反応の調節にかかわる脂質メディエーターが、何らかの関与をしているものと考えている。この観点から、炎症の「発生と収束」に関わる脂質メディエーターに特化した解析を、共同研究を行っている理化学研究所総合生命医化学研究センターの有田 誠教授のもとで行った。得られた結果については、メタボローム以外の実験による検証とバリデーションを行う必要がある。この検証を行う際に必要な機器(AriaMxリアルタイムPCRシステム)およびマーカーを準備する必要があった。これらの準備と予備検討を十分に済ませた後、多検体での解析を行うため、次年度に使用する研究費が生じた。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件)
Medicine (Baltimore)
巻: 96(50) ページ: e9220
doi: 10.1097/MD.0000000000009220.
Mod Rheumatol.
巻: 27(5) ページ: 849-854
doi: 10.1080/14397595.2016.1259602.
臨床免疫・アレルギー科
巻: 67(4) ページ: 343-348