研究課題
関節リウマチ (RA) は慢性の関節滑膜の炎症と滑液貯留による関節痛、関節腫脹を特徴とする自己免疫性疾患である。治療の進歩によって寛解や関節破壊の抑制が可能となってきているが、依然寛解を得られない症例は5割程度存在することから新たな治療ターゲットの探索が待たれる。RasGRP4 (Ras-guanyl releasing protein 4) は主に血球系細胞に発現するRasの活性化因子であるが、最近我々は、RA患者の線維芽細胞様滑膜細胞 (FLS) にRasGRP4が高発現し、その増殖を促進することを明らかにした。本研究では、RasGRP4が高発現し、下流のシグナル分子を活性化する経路について検討し、滑膜増殖を制御可能かどうかについて明らかにすることを目的とした。RA滑膜におけるMAPK活性化の評価;RA滑膜におけるRasGRP4および下流のMAPKであるErkのリン酸化を組織染色によって検討した。結果、RAの滑膜組織の免疫組織化学標本においてRasGRP4、リン酸化ERK、リン酸化p38MAPKは滑膜組織表層のFLSの重層化している部分に高発現していた。HEK293細胞にRasGRP4を強制発現させることによりRaf/MEK/ERK、p38MAPK、JNKのリン酸化が検出された。継代を進めてRasGRP4の発現が低下したFLSにRasGRP4を強制発現することによってもERKおよびp38MAPKのリン酸化が検出された。今回、他のRasGRPファミリー分子のFLSにおける発現も検討したが、予想に反してRasGRP2もRA患者でmRNAレベル・蛋白レベルにおいて高発現していることが明らかとなった。RasGRP2は、血管内皮細胞や巨核球に発現、Rap1を主に活性化し、細胞接着や移動に関与することから、FLSにおいてはその強い組織への浸潤性にも関わる可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
細胞を用いたRasGRP4の下流シグナルメカニズムに関する検討は、比較的予想の範囲内で進捗しており、Erkのみならずp38MAPK, JNKのリン酸化も促すことが見出された。上流に関しては今後、細胞株を用いて探索するが、RasGRP4プロモーターアッセイに用いるベクターは構築済であり、比較的スムーズに検討が行えるものと想定している。ルシフェラーゼアッセイを用いるので、得られた数値の不安定性が懸念されるが、その場合は免疫沈降法など代替の手法によってTNFα刺激の下流で核内移行するNFkBとの結合を評価する。FLSにおけるRasGRP2の高発現については予想外の結果ではあるが、線維芽細胞株の接着性・浸潤性を考慮すればRAの病態に関与していることが考えられる。ターゲットとしてのRasGRP4:マウスII型コラーゲン誘導関節炎 (CIA) モデルにおいて、RasGRP4特異的siRNAを静注用試薬とともに2週間隔で2回尾静脈から投与することで、関節炎スコアおよび骨びらんを抑制することができたものの、投与中止後に関節炎は再度悪化した。RasGRP4の下流分子であるRasは、そのトランスロケーションを阻害するfarnesyltransferase inhibitor (FTI)による活性化抑制をうける。FTIの一種であるTipifarnibは、急性骨髄性白血病 (AML) その他の癌腫で治験が行われ、RasGRP1高発現のAMLには有効であることが報告されたが、治療薬としては認可されていない。我々は、関節リウマチ患者由来FLSをTipifarnib存在下で培養し、その増殖をBrDU assayで定量したところ、濃度依存性の増殖抑制効果を確認した。
RA滑膜におけるRasGRP4活性化機構の解明: RasGRP4 発現がRA由来FLSにおいて、TNFα刺激後に発現亢進することはこれまでに示したが、そのメカニズムは明らかになっていない。RasGRP4プロモータ領域の塩基配列から、TNFα刺激で動くとされる転写因子NFkBの結合部位が存在することが予測され、IkBのリン酸化、ルシフェラーゼアッセイなどを用いてTNFα刺激後のRasGRP4転写亢進機構を明らかにする。FLSにおけるRasGRP2発現の意義: RasGRP2がFLSで高発現している事が病態に及ぼす意義について、まずは線維芽細胞株を用いて強制発現させ、その増殖およびmotilityに対する効果を検証する。その後、FLSを用いたノックダウンの系でも同様の評価を行う。マウス関節炎モデルに関しては、siRNAの全身投与では効果が一過性である点や、臨床応用が難しいと予想された。今後はヒトに投与されているFTIであるTipifarnibを腹腔内投与する系で、まずは既存薬で関節炎を抑制しうるかどうかについて検討する。リコンビナントヒトRasGRP4/2の作製; RasGRP4をターゲットとした新たな治療法を開発することを検討する。RA患者に対するsiRNAの全身投与は現実的には難しく、薬学研究科との共同研究や産学連携を利用したRasGRP4阻害剤の開発に向けた準備を開始する。まず、ほ乳類細胞, 昆虫細胞または酵母の系をもちいてリコンビナントRasGRP4蛋白を大量に作製する。リコンビナント蛋白作成後は、同センターの所有する化合物ライブラリーを用いたRasGRP4結合化合物のスクリーニングに着手する。また、RasGRP2の阻害でFLSの増殖あるいは移動・浸潤能が抑制されるようであればRasGRP2もRA治療のターゲットとなり得る。その場合には、リコンビナントヒトRasGRP2も作製し、理想的にはRasGRP2/4両者を阻害する化合物をスクリーニングしたい。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 4件)
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