研究課題
IgG4関連疾患確定群の治療前後および健常人の血清を用い、疾患で特異的に変動するタンパク質群を、プロテオミクスの手法を用い網羅的に解析し、IgG4関連疾患の病因病態に関連するタンパク質の同定を行った。疾病特異的なバイオマーカータンパク質は極微量であり、微量成分を検出するには、血清中の高存在量タンパク質の効率的除去と、高感度の検出系が必要であると考えられた。そこで、前処理として抗体カラムを用い、高含有タンパク質の選択的除去分離および低分子量タンパク質の濃縮を行った。処理後の血清タンパク質について、「健常人vs 治療前」および「治療前 vs 治療後」の比較を行うため、血清タンパク質を蛍光標識試薬Cy2,Cy3,Cy5で標識し、2次元電気泳動による展開を行った。Cy標識されたタンパク質のゲル画像を、Decyder software6.5を用い、ディファレンシャル解析したところ、患者・健常人間、また、治療前後において、有意差(p<0.05)を持って発現変動を示すスポットが得られた。このうち1.2倍~3倍などの差があるスポットを選択し、質量分析およびWB、ELISAによるタンパク質同定を行った。その結果、炎症系因子の増加、免疫システム調節に関連する因子の変動が認められた。抽出されたタンパク質群の内、IgG4関連疾患の病因病態への関連が考えられる因子、また、バイオマーカー候補の因子について検討を行ったところ、IL-4とCD40刺激下で、IgE, IgG4へのクラススイッチをより選択的に増強させ、B細胞の、IgE, IgG4への分化を誘導するAlpha-1 antitrypsin(A1AT)の発現亢進と、CRP、IL-6値と相関し、また疾患活動性の指標の一つであるIgG値との相関を示すLeucin-rich alpha-2- glycoprotein(LRA2G)を見いだした。
3: やや遅れている
血清中に存在する極微量の疾病特異的な因子を検出するため、高含有タンパク質の選択的除去と、特異的タンパク質を検出する高感度の検出系の確立を行い、IgG4関連疾患治治療前後、および患者・健常人間で、有意差を持って発現に差異のあるタンパク質の抽出に成功した。タンパク質同定の信頼度が高いScoreが35以上、検出できたペプチド数が2以上、Cover率が1%以上のもののリスト化を行い、発現に差異のあるタンパク質のバリデーションを行った。抽出されたタンパク質群の内、IgG4関連疾患の病態・病因への関連が考えられる因子について検討を行い、B細胞の、IgE, IgG4への分化を誘導するA1ATの発現亢進と、CRP、IL-6値と相関し、また疾患活動性の指標の一つであるIgG値との相関を示すLRA2Gを見いだした。IgM発現B細胞はT細胞の発現するCD40LとTCRとの相互作用によって活性化される。活性化したB細胞において、CD40やIL-4受容体からのシグナルにより発現が誘導されたAID(activation induced cytidine deaminase)によりクラススイッチが引き起こされる。A1ATのAIDによるクラススイッチへの関与を検討するため分化実験を施行した。Human Whole Bloodを、ビーズを用いたネガティブセレクションでB cellを分取し、96 wellプレート上にて、IL-4と、anti-CD40 mAbにて共刺激を行い、A1ATを各濃度にて添加し、A1ATのクラススイッチへの関与を確認した。また、LRA2Gに関しては、現在、実際の病態や、確診群、擬診群との比較を行い、マーカーとしての評価を進めている。IgG4関連疾患では、A1ATの機能が亢進することによりAIDの転写が増強され、恒常的にIgG4へのクラススイッチの誘導が亢進していると考えられた。
IgG4関連疾患患者の治療前後で、有意差をもって変動したタンパク質の病態・病因への関連と、バイオマーカーとしての可能性の検討を行う。LRA2G は、患者vs健常人間で、有意に患者群で高い値を示し、治療によりその値を有意に下げた。また、治療前、治療後1M、6M、12Mの値の変動を確認したところ、治療前に示した高い値は、治療後、健常人と同等の数値に抑えられ、その後、継続して同等の値を示した。LRA2Gは、IgG4関連疾患の病勢と相関する可能性が示唆されている。このLRA2Gが、実際にマーカーとして有用かどうかを確認するため、実際の病態や、確診群、擬診群との比較、また、IgG4関連疾患再発例でのLRA2Gの変動を確認し、LRA2Gのマーカーとしての評価を進めている。また、LRA2Gの機能についても解析を行う。LRA2GはTGF-βの補助受容体エンドグリンに直接結合し、TGF-βシグナル伝達の調節に関与している。IgG4関連疾患は、Th2サイトカイン優位で、IL-10や、TGF-βといった制御性サイトカインの発現が亢進した免疫応答が生じていると考えられている。IgG4関連疾患におけるLRA2Gの産生亢進は、TGF-βのシグナル伝達を過剰に亢進し、病変部の繊維化およびサイトカイン産生異常の一因となっている可能性が考えられる。IgG4関連疾患におけるLRA2Gの病態への関与を解析するため、診断が確実なIgG4関連疾患、およびコントロールの病理組織標本の免疫組織染色を行い、LRA2Gの発現分布を確認する。また、レーザーキャプチャー・マイクロダイセクションにて陽性部位を切り取り、各種遺伝子発現を定量的に解析し、病変局所の繊維化との相関を解析する。
LRA2G は、患者vs健常人間で、有意に患者群で高い値を示し、治療により、その値を有意に下げた。LRA2Gは、IgG4関連疾患の病勢と相関する可能性が示唆されている。LRA2Gが実際の臨床の場で使えるかどうか検討するため、IgG4関連疾患再発例の検体の収集・解析を行う必要があった。IgG4関連疾患再発例、および病態との相関の解析を行うため、次年度に使用する研究費が生じた。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件)
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