研究課題/領域番号 |
15K09546
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
久田 剛志 群馬大学, 医学部附属病院, 講師 (10344938)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 肺線維症 / 脂質メディエーター / resolvin / 炎症収束 / 動物モデル / ω-3脂肪酸 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、ブレオマイシン(BLM)誘発肺線維症in vivoモデルを作製し17(R)-ResolvinD1(以下、RvD1と略す)の効果を解析し、検討した。 C57BL/6J 8週齢マウスに、osmotic pumpを用い安定的にBLMを皮下投与することによって作製することができた。day28に肺組織を回収し、組織のヘマトキシリン-エオジン染色、肺線維化のスコアリングを行い、回収した肺組織を用いて、ハイドロキシプロリンの定量解析を行い、コラーゲン量の分析をした。さらに、回収した肺組織の一部から線維化に重要なサイトカインであるTGF-β1やCTGFをReal-time PCR法により定量的に測定した。気道炎症を経時的に観察する目的で、BLM誘発肺線維症モデルマウスをday3, 7, 14, 28に気管支肺胞洗浄(BAL)を行い、総細胞数、細胞分画を測定した。また、各炎症相の経時的変化も観察した。BAL液中の炎症性サイトカインの産生をELISA法により分析し、BAL液中に回収されたcytokine profileを検討した。研究協力者である矢冨正清が精力的に実験を行った。 本研究においては、RvD1が本肺線維化モデルに効果的に抑制を示すこと、レセプターと考えられているALX/FPR2を介して作用すること、BLMにより惹起された好中球浸潤や炎症性サイトカインの産生増加等の急性炎症の収束を促進しつつ肺線維化形成の抑制に寄与することを示唆する結果が得られた。また、一度形成された線維化病変が改善されたことを示唆する結果も得られ、RvD1投与後の、肺組織中のMMP-9の有意な改善及びTIMP-1の低下傾向を確認した。 次の「現在までの達成度」でも詳しく述べるように、現在までのところで有意な結果を得ることができたので、国際学会で発表し、英文での論文化もできた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
作製されたマウス肺線維症モデルでは、BLM投与開始後day0よりday14までが炎症期、day14よりday28までが線維化形成期と考えられる。まずprotocol1の実験では、day0より17(R)-RvD1を2μg/dayで5日間連続腹腔内投与し評価した。RvD1の作用機序を検証するため、RvD1のリガンドとされているALX/FPR2のantagonistであるBoc-PLPLPをRvD1投与と同期間投与し、BALF中の炎症細胞数を測定した。さらにprotocol2の実験では、RvD1が既に出来上がった肺線維化を改善するか否かを検証するため、RvD1をday21より5日間投与しBALF、肺組織を採取し解析した。Protocol1では、BALF中の好中球数の有意な減少を認め、肺組織中のIL-1β、TGF-β1、CTGFの遺伝子発現量の有意な減少も認めた。またRvD1群でBALF中の好中球数、マクロファージ数の有意な減少を認め、typeⅠcollagenの遺伝子発現量及びハイドロキシプロリン含有量の有意な低下、CTでBLMによる肺野の高吸収領域の改善、肺組織標本における改善が確認された。また、BLM/RvD1群でBoc-PLPLPを投与すると、day14においてRvD1によって減少したBALF中の好中球数の回復効果が認められた。Protocol2でもRvD1は肺線維化抑制効果を示し、BLM投与によって低下した肺組織中のMMP-9がRvD1投与によって有意に回復し、MMP-9の阻害酵素であるTIMP-1がRvD1投与によって低下傾向となることが確認された。以上より、RvD1の肺線維化抑制効果を示せたのみならず、作用機序の一端、レセプターの関与についても確認でき、英論文化し成果を公開することができた。ここまでは、当初の予定以上に達成できていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、RvD1の急性炎症期と線維化形成期に対する抗炎症効果、抗線維化効果、及び線維化改善効果の一端を証明できたものと考察している。特に、MMP-9の回復作用の報告は、RvD1のIPFにおける治療薬としての潜在能力を強く示唆するものであると考えている。しかし、今後はさらに各種サイトカインや成長因子の蛋白量発現解析、細胞実験での具体的なRvD1の抗線維化作用機序の解明等、より詳細な検討の余地を残している。今後、本研究の成果が新たなIPFの治療戦略の1つになり得ることを期待して研究を進めていく。 まず、推進していくべき実験計画としては、in vitroの解析による17(R)‐ResolvinD1のサイトカイン産生抑制効果の検討である。 1、マクロファージに対する作用の検討について、マウスマクロファージ系細胞株であるRAW264.7を培養、刺激し、17(R)‐ResolvinD1のサイトカイン産生に及ぼす影響を検討する。 2、線維芽細胞に対する作用の検討について、ヒト胎児由来正常線維芽細胞株HFL-1を培養し、TGF-β1刺激後のSmad3リン酸化の経時的変化を検討し、17(R)‐ResolvinD1を作用させ、Western Blot法にてSmad3のリン酸化及びコラーゲン蓄積に及ぼす影響を検討する。また、細胞株HFL-1を17(R)‐ResolvinD1投与下で培養し、TGF-β1刺激後のα-smooth muscle actinの発現を比較検討していく。 さらに、肺線維症モデル動物におけるOGR1ファミリー欠損の気道炎症反応に対する役割を詳細に調べ、気道炎症により惹起される局所のpH低下が及ぼす、肺線維症に対する作用を明らかにしたい。特発性および膠原病性などを含めた肺の線維化をきたす病態に対して新しい治療戦略の創成をめざす。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究が当初の計画以上に進展しており、最初の論文も雑誌に発表することができた。実験で使用する予定としていた動物や試薬が少なく済んでいる。
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次年度使用額の使用計画 |
今後は、より一層機序の解明に努めたい。したがって、in vitro実験の比重が高くなるものと思われる。使用する予定の試薬に多くの資金が必要である。また、研究結果の発表を国際学会で予定しており、投稿済みである。アクセプトされれば、旅費も必要となる。
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