研究課題
平成28年度は、以下に示す27年度の研究結果をさらに発展させるべく研究を進めた。平成27年度中、ブレオマイシン(BLM)誘発肺線維症in vivoモデルを作製し17(R)-ResolvinD1(以下、RvD1と略す)の効果を解析し検討できた。 C57BL/6Jマウスに、BLMを持続皮下投与することによって作製し、肺組織を回収し、組織の染色、肺線維化のスコアリングを行った。肺組織を用いて、ハイドロキシプロリンの定量解析を行い、コラーゲン量の分析をした。さらに、肺組織の一部から線維化に重要なサイトカインであるTGF-β1やCTGFをReal-time PCR法により定量的に測定した。気道炎症を経時的に観察する目的で、BLM誘発肺線維症モデルマウスをday3, 7, 14, 28に気管支肺胞洗浄(BAL)を行い、総細胞数、細胞分画を測定した。また、各炎症相の経時的変化も観察した。BAL液中の炎症性サイトカインの産生をELISA法により分析し、BAL液中に回収されたcytokine profileを検討した。本研究においては、RvD1が本肺線維症モデルに線維化抑制効果を示すこと、レセプターと考えられているALX/FPR2を介して作用すること、BLMにより惹起された好中球浸潤や炎症性サイトカインの産生増加等の急性炎症の収束を促進しつつ肺線維化形成の抑制に寄与することを示唆する結果が得られている。また、一度形成された線維化病変が改善されたことを示唆する結果も得られ、RvD1投与後の、肺組織中のMMP-9の有意な改善及びTIMP-1の低下傾向を確認した。現在までのところで得られた有意な結果を2016年9月に欧州呼吸器学会(ロンドン)でも発表し、英文での論文化もしている。また、平成28年度は、肺線維症に関連する基礎的研究論文を英文で2報発表することができた。
2: おおむね順調に進展している
初年度の平成27年度は、研究の前半部分である抗炎症性脂質メディエーターの効果に関してin vivoの実験を中心に以下の成果を得られた。すなわち、ω3脂肪酸由来の抗炎症性、炎症収束性メディエーターである17(R)-ResolvinD1(RvD1)が肺線維症を抑制すること、およびその若干のメカニズムについて成果を得た。RvD1の肺線維化抑制効果を示せたのみならず、作用機序の一端、レセプターの関与についても確認でき、英論文化し、成果を公開することができたことは、当初の予定以上に初年度の目標は達成できたと考えている。2年目となる平成28年度は、in vitroの実験系についても研究を進めているが、新しい研究結果を発表できるところまでは至っていない。最終年度である29年度に継続する。
いままでのところ、本研究では、RvD1の急性炎症期と線維化形成期に対する抗炎症効果、抗線維化効果、及び線維化改善効果の一端を解明できたものと考察している。特に、MMP-9の回復作用の報告は、RvD1のIPFにおける治療薬としての潜在能力を強く示唆するものであると考えている。しかし、昨年度も目標に掲げたように、今後はさらに各種サイトカインや成長因子の蛋白量発現解析、細胞実験での具体的なRvD1の抗線維化作用機序の解明等、より詳細な検討の余地を残している。今後、本研究の成果が新たなIPFの治療戦略の1つになり得ることを期待して研究を進めていく。in vitroの解析による17(R)‐ResolvinD1のサイトカイン産生抑制効果の検討1、マクロファージに対する作用の検討について、マウスマクロファージ系細胞株であるRAW264.7を培養、刺激し、17(R)‐ResolvinD1のサイトカイン産生に及ぼす影響を検討する。2、線維芽細胞に対する作用の検討について、ヒト胎児由来正常線維芽細胞株HFL-1を培養し、TGF-β1刺激後のSmad3リン酸化の経時的変化を検討し、17(R)‐ResolvinD1を作用させ、Western Blot法にてSmad3のリン酸化及びコラーゲン蓄積に及ぼす影響を検討する。また、細胞株HFL-1を17(R)‐ResolvinD1投与下で培養し、TGF-β1刺激後のα-smooth muscle actinの発現を比較検討していく。さらに、肺線維症モデル動物におけるOGR1ファミリー欠損の気道炎症反応に対する役割を詳細に調べ、気道炎症により惹起される局所のpH低下が及ぼす、肺線維症に対する作用を明らかにしたい。特発性および膠原病性などを含めた肺の線維化をきたす病態に対して新しい治療戦略の創成をめざす。引き続き研究を進めていく。
研究がおおむね順調に進んでおり、研究成果も出せている。今までのところ、実験で使用する予定の動物や試薬が少なく済んでいる。
今後はより一層、機序の解明に努めていく予定である。今後使用する予定の試薬も多くなることが予想される。また、研究成果発表のための旅費も必要となる。
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