研究課題/領域番号 |
15K09558
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
岡山 吉道 日本大学, 医学部, 准教授 (80292605)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 慢性蕁麻疹 / 皮膚マスト細胞 / サブスタンスP / MrgX2 / hemokinin-1 |
研究実績の概要 |
(背景)慢性蕁麻疹患者血清中のサブスタンスP濃度は、健常人と比較して有意に高いこと、また、慢性蕁麻疹の重症度と相関していることが、ドイツの研究グループから報告された。我々は、最近重症の慢性蕁麻疹患者の皮膚マスト細胞のMrgX2 の発現が健常者と比較して有意に増強していることを報告した。(目的)hemokinin-1に特異的な抗体を用いたELISAで慢性蕁麻疹患者と健常人血清中のhemokinin-1濃度を比較すること。また、サブスタンスP濃度を比較すること。hemokinin-1の皮膚マスト細胞脱顆粒能を調べ、受容体を同定すること。血清中のhemokinin-1濃度の高い慢性蕁麻疹患者の臨床的特徴を明らかにすること。(方法)慢性蕁麻疹患者の血清サンプルが68例、健常人44例がを用いた。血清中のサブスタンスP濃度、hemokinin-1濃度、抗IgE自己抗体および抗Fc epsilon RI alpha鎖自己抗体をELISAで測定した。Fc epsilon RI alpha鎖を架橋するレベルをEXiLE法で測定した。レンチウイルスベクターを用いたshRNA法によりMrgX2遺伝子発現を抑制した。(結果)慢性蕁麻疹患者血清中のhemokinin-1濃度は、健常人と比較して有意に高かった。一方、サブスタンスP濃度は両者においてほぼ全例ELISAの感度以下であった。hemokinin-1は皮膚マスト細胞の脱顆粒を惹起し、受容体は、MrgX2であった。血清中のhemokinin-1濃度と抗IgE自己抗体および抗Fc epsilon RI alpha鎖自己抗体の間には有意な相関はなかった。(結論)hemokinin-1は慢性蕁麻疹の新たな薬剤標的であり、血清中のhemokinin-1濃度の高い慢性蕁麻疹患者はいわゆる自己免疫性の蕁麻疹患者とは違う群に含まれることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
慢性蕁麻疹患者の血清サンプルが68例、健常人44例が集まり血清中のサブスタンスP濃度とhemokinin-1濃度を比較することができた。また、抗IgE自己抗体、抗Fc epsilon RI alpha鎖自己抗体の測定方法が確立できた。さらにFc epsilon RI alpha鎖を架橋するレベルを測定する系も確立できたため。 この研究の基盤となる慢性蕁麻疹患者における抗IgE自己抗体および抗Fc epsilon RI alpha鎖自己抗体の病態における役割の研究を平行して行っており、こちらもおおむね順調に進展しているため。 サブスタンスPとhemokinin-1は11個のアミノ酸からなり6個のアミノ酸が同じであるため、抗体は交差性を示す可能性があり、検証が必要であったが、hemokinin-1にのみ反応する抗体によるELISAが購入可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
重症蕁麻疹患者の膨疹部におけるMrgX2が発現している皮膚マスト細胞数の増加の機序をTSLP, IL-33といったサイトカインの作用のみならず、微小環境に存在する因子の影響を備に観察していく方針である。マスト細胞が産生するGroup III phospholipase A2 (PLA2G3) が線維芽細胞のL-type prostaglandin D2合成酵素 (L-PGDS) と結合し活性化させPGD2を産生させる。このPGD2がマスト細胞表面のPGD2受容体 (DP1) に作用する。また、線維芽細胞の表面の発現している膜型stem cell factor (SCF) がマスト細胞のKITに作用する。これによってマスト細胞は成熟する。そこで、ヒト皮膚マスト細胞がPLA2G3を発現していることは既に報告しているので、皮膚マスト細胞を皮膚線維芽細胞と4-7日間共培養し、成熟のマーカーとして、Hdc (histidine decarboxylase, ヒスタミン合成酵素)、Ptgds2 (hematopoietic PGD2 synthase)、Cma1(chymase、結合織マスト細胞に発現しているプロテアーゼ)、Mrgx1およびMrgx2を指標にmRNAレベル (4日間培養) とMrgX2のタンパクレベル (7日間培養) を共培養なしの細胞と比較する。DNA chipで網羅的発現解析を行う。炎症を模倣するためTNF-alpha処理をした皮膚線維芽細胞も使用する。特に脂質のマスト細胞の成熟に対する影響を調べる。特にProstaglandin D2に対しては抗PLA2G3阻止抗体、DP1拮抗薬(BW A868C)およびL-PGDS抑制薬(AT-56)を用いてPGD2の関与を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
患者血清中の抗FcepsilonRI alpha鎖自己抗体濃度に必要な可溶性FcepsilonRI alpha鎖を当研究室で作成したため、必要経費が削減できたことと、自己抗体測定系は市販の測定キットを使用せず、当研究室で作成したため、必要経費が削減できたので、次年度に血清中のサブスタンスP濃度測定ELISAキットおよび血清中のhemokinin-1濃度測定ELISAキット(市販)を2キットずつ購入予定であり、その代金として確保したため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
血清中のサブスタンスP濃度測定ELISAキットが1キット141,696円であり、血清中のhemokinin-1濃度測定ELISAキットが1キット124,416円であり、これらキットを29年度早期に2キットずつ購入予定であり、その代金として使用を計画している。
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