研究実績の概要 |
新生児及び高齢者の重篤感染症治療の第一選択薬であるペニシリン系薬に低感受性を示すB群レンサ球菌(PRGBS)株が、同一医療機関でST1に属しながらも莢膜多糖体血清型の経時的な集団変遷をみせた。流行初期の血清型IIIの株と変遷後のIaの株はいずれもST1に属し、ペニシリン結合蛋白 (PBPs)に共通の4アミノ酸置換が見られた。さらにドラフトゲノム配列のANI値及びSNPを指標とした系統解析の結果, 血清型IIIのstrain SU12と血清型Iaのstrain SU97 の間でクラスターが形成され、ゲノム配列の高い相同性が確認された (ANI値99.84%, 957 SNPs)。また, これらの株間で病原因子の保有プロファイルも一致していた。莢膜多糖体遺伝子クラスターとその上流、下流を含む約55 kb領域の解析からstrain SU12ではcpsY上流のhylBへのIS1548挿入による遺伝子破壊が認められたが、このような特徴は流行初期の血清型IIIの全株で確認された。一方、strain SU97ではcpsL下流のtRNA-Arg とrpsA の間へのISsag8の挿入が認められたが、strain SU12でみられたhylBの遺伝子破壊は確認されなかった。このような特徴は血清型Iaの株の大多数で確認された。hylBは主要な病原因子であるヒアルロニダーゼをコードしており, 血清型Iaの株が正常なhylBを有していたことから血液由来の4株がいずれも血清型Iaで予後不良事例であったこととの関連性が注目される。 本研究から血清型IIIからIaへの集団的変遷事象に莢膜スイッチング及び院内伝播が関与している可能性が示唆され、WHO主導で進行中のワクチン開発戦略における障壁となることから本成果をInt J Antimicrob Agents 2019;53:203-210にて発表した。
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