本研究は、病原体と宿主のアポトーシス分子との相互作用をはじめ、病原体-宿主の未知の相互作用機構を明らかにすることを目的とする。本研究では、1)アポトーシスとクラミジア感染の関係についての解析ならびに2)アポトーシス制御に関与するYAPシグナルの観点から、メダカ個体と三次元オルガノイド培養系を用いた解析を遂行した。 1)アポトーシス制御における宿主の因子を解明する実験において、我々は、Hela細胞やマウス上皮細胞(MEF)における肺炎クラミジア感染をApaf-1が促進する一方、Caspase-9の抑制がその感染を制限していることを見出した。Apaf-1は細胞内の自然免疫レセプターであるNOD1とドメイン構造を共有しており、クラミジア感染を制御する戦略の中で重要な役割を果たしている可能性が考えられる。 2)RNA-seq法によりメダカ野生型胚とYAP変異体胚との間の比較トランスクリプトーム解析を行った結果、免疫系のシグナル伝達分子などに顕著な発現変動が認められた。そこでヒトRPE1細胞 (網膜色素上皮細胞) においてq-PCR法により遺伝子発現解析を行ったところ、YAPのノックアウトに伴い免疫系のシグナル伝達分子の発現が上昇する傾向が認められた。以上の結果から、YAPによる免疫系シグナル分子の発現制御は、魚類からヒトに至るまで進化的に広く保存されている可能性が考えられた。次に、大腸オルガノイド培養系においてサルモネラを培地に添加し感染を試みたが、宿主細胞内へのサルモネラの侵入を確認するには至らなかった。そこで、マイクロインジェクション法により、オルガノイド内腔へサルモネラを直接導入し感染効率の向上を試みた。今後、細菌感染オルガノイドを用いたトランスクリプトーム解析を行うことにより、YAPシグナル系が宿主-病原細菌間の相互作用に与える影響を明らかにできると考えられる。
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