研究課題
本研究は病原真菌Candida glabrataにおける多剤耐性機序の解明を目的としている。以前、研究代表者は、薬剤曝露によって生じた複数の遺伝子変異の中から、わずか一つのアミノ酸変異によって多剤耐性が誘導されることを見出した。今回、その変異がどのシグナル伝達経路を活性化しているのかをDNAマイクロアレイを用いた網羅的解析結果から推定し、リアルタイムPCRによる検証を行った。その結果、ある転写調節因子を介した経路によって、薬剤排出ポンプ遺伝子の発現が著明に上昇しており、フローサイトメトリーを用いた解析で細胞内薬剤濃度の減少が確認された。さらに、これらの関連遺伝子欠損株を作製し、感受性が回復することを確認できたため、薬剤排出ポンプの活性化が一つの機序であると結論付けた。電子顕微鏡による細胞構造解析では有意な所見は得られなかったが、細胞膜構成成分にはある一定の変化が起こっていることを確認した。これは、薬剤と標的分子の結合に影響を及ぼしていると推察しているが、更なる検証が必要である。また、今回の責任遺伝子の野生型と変異型にそれぞれ3xFLAG-HAタグを付け、免疫沈降法を行った。Western blottingの結果から、有意に差があるものについて、LC-MS/MSおよびMALDI-TOF/MSを用いて関連分子の同定を行った。今後はこれらの遺伝子欠損株や変異株を作製して解析を進めることで、多剤耐性機序の解明を目指している。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度の研究計画として、C. glabrataにおける多剤耐性機序の解明を目指した分子生物学的研究を掲げた。具体的には、責任遺伝子変異による二次的影響の解析、DNAマイクロアレイを用いた網羅的遺伝子発現解析、電子顕微鏡や細胞膜脂質成分解析による細胞構造解析などであるが、これらはいずれも上述のように実行され、期待通りの成果が得られた。一方、化合物ライブラリーのスクリーニングについては、共同研究先の事情もあり予定を変更した。
これまでに得られた上述の情報と各種遺伝子欠損株を用いて、直接結合するタンパク質の解析や二重欠損株の表現型解析などを行う。一つのアミノ酸変異が、どのようなシグナル伝達経路を介して抗真菌薬耐性化という表現型に繋がるのかを、分子生物学的に検討する。また、化合物ライブラリーのスクリーニングを効率よく進めるためのアッセイ系を確立する。まずはCandida albicans野生株に活性を有する化合物を選別するが、その後は多菌種および耐性菌も含めた2次スクリーニングを行う。
薬剤標的候補分子の探索については、共同研究先の事情もあり、化合物ライブラリーのスクリーニングを次年度にまわしたため。
Candida albicansやAspergillus fumigatusを対象に、化合物スクリーニングを行う。その際に必要な消耗品などを購入する。耐性機序解明を目指した分子生物学的研究はこれまでどおりに推進していく。
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