研究課題/領域番号 |
15K09574
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
天野 将之 熊本大学, 医学部附属病院, 研究員 (30575080)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | HIV-1 / キャプシド構造蛋白 / 蛋白崩壊 / 創薬 |
研究実績の概要 |
本研究は、HIV-1(HIV)粒子を形成する構造蛋白であるcapsid(CA)に対して特異的に結合し、更にCAの自己崩壊(自壊)を誘導する事でHIVの増殖を抑制する、今まで報告の無い機序を有する抗HIV剤の開発を目指すものである。我々は治療不応となったHIV感染者由来株に認められるCAのアミノ酸挿入変異 (AA) に注目、このようなAAを有する変異株では今まで報告の無いCAの異常な自壊が起こる事を見出した。CAにAAを導入した変異株を多数作成・検討した結果、本現象は変異株を培養する事で進行し、変異株ではCA殻の形成不全が起こり、著しく感染・複製能が低下する等多数のデータを得ている(Amano, et al. 論文投稿中)。以上より、挿入変異CA自体がその構造学的変化により自壊すると推測でき、この構造的不安定性が耐性株の低複製能に関連していると考えられる。本知見を基に、AAが入る事でCAの自壊を来すCAの標的部位へ強固に結合する化合物は同様の現象を誘発し得ると考え、新規治療法に繋がる化合物の検索・評価を行った。HIV CA結晶の表面構造を解析する事でCAの標的部位近傍に疎水性cavityを同定、800万個超の化合物データを基にdocking simulationにより各化合物とCA間の結合スコアを計算、良スコアの化合物は購入し抗HIV活性を評価した。ELISAやWBにより新規同定した抗HIV化合物群のCAに対する作用の有無を評価し、3種類の化合物において著明なCAの自壊誘導活性を有する事を見出した。電顕で成熟HIV粒子に対する同定したCA自壊誘導化合物の影響を評価した。更に各種アミノ酸欠損変異CAを作成しCA-化合物間での結合部位の推測を行った。CA自壊誘導化合物の構造最適化を図るため、共同研究者と共に合成展開を進め、また同定したCA自壊誘導化合物に関して特許出願を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HIV CAを強制発現させた細胞の溶解液に、同定化合物を添加して培養した際のCA抗原性の変化を評価した結果、HIV CAに直接作用して著明な蛋白自壊を誘導する事で抗HIV作用を発揮する3種類の化合物(CA自壊誘導化合物)を新規に同定した。HIV強制発現細胞の溶解液やウイルス溶解液を用いて評価した結果、細胞内に強制発現させたCA単量体・細胞から出芽前後のHIVの全てにおいてCA自壊誘導化合物はCAの自壊を誘導する事が判明した。更に成熟HIV粒子浮遊液を作成しCA自壊誘導化合物と反応させた後に電顕で観察した結果、CA自壊誘導化合物の添加によりHIV粒子の著しい形態異常を来す事が判明、この結果よりCA自壊誘導化合物は感染細胞内で合成されたCA、および成熟HIV粒子内に侵入しHIV遺伝子を包む円錐状殻を形成したCAに直接作用する事、すなわちHIV生活環での異なったphasesでその抗HIV作用を発揮する事が示唆された。アミノ酸配列を部分欠損させた変異CA蛋白発現プラスミドを網羅的に作成し、CA自壊誘導化合物と反応させCA自壊誘導能の変化を評価した結果、CA自壊誘導化合物の結合に必須なCAのアミノ酸領域はCAのN末端側にある事を明らかにした。同定したCA自壊誘導化合物の抗HIV活性に関する構造最適化を図るため、化合物の合成展開を熊本大学薬学部の化学合成研究者グループ並びに海外の化合物サプライヤーと共に積極的に進めた。更に、同定したCA自壊誘導化合物に関して、助成期間中に特許を出願した。新規に同定したHIV CA自壊誘導化合物群における、これまで開発・報告されてきた抗HIV剤に無い特性を多数明らかとしており、本研究計画における達成度は高いと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
① HIV CA表面に同定した疎水性標的cavityに対して、特異的に結合する化合物のin silico docking simulationによる検索、② MTTアッセイ法やp24アッセイ法を用いた、購入化合物の抗HIV活性の評価、③ HIV CA特異抗体を用いた、抗HIV-1活性を有する同定化合物の、CA自壊誘導作用の評価を継続して行う。Magi assay(細胞内 entry)、HIV RT Assay、HIV Integrase Assay等を用いる事で、同定化合物がエントリー阻害活性、逆転写阻害活性、インテクレーション阻害活性等、CA 阻害活性以外の作用を有しているか確認する。また耐性誘導中に プロテアーゼ、逆転写酵素、インテグラーゼ等の酵素領域での変異の蓄積がないか評価する。CAとCA自壊誘導化合物の共結晶構造解析により詳細な CA-化合物間の結合様式を検討する。更にクライオ電子顕微鏡により、発見したCA自壊誘導化合物が CA 蛋白の多量体形成およびウイルス構造蛋白の成熟化に如何に影響を及ぼしているかを詳細に検討する。CA自壊誘導化合物の類似物を検索し、見つかった化合物に関しては購入し抗 HIV 活性、CA 自壊誘導活性を評価する。また同定した CA 自壊誘導化合物の合成展開・最適化を継続して行い、更に強力・個性的な CA 阻害剤の開発を続け、in vitro 腸管吸収性評価や小動物による薬理動態・毒性評価を経て、臨床試験導入を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
補助事業の目的を更に高度に達成し、更に実りのある研究にするために、追加実験(新規に同定したCA自壊誘導化合物の構造最適化・合成展開およびその機能評価、またCA自壊誘導化合物のCAへの結合様式等の詳細な検討)を推進する事で、CA自壊誘導化合物の抗ウイルス活性の向上、高インパクトな国際科学雑誌への論文投稿や研究成果の国際/国内学会発表へと繋げていきたい。
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