研究課題/領域番号 |
15K09575
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
立野 一郎 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 講師 (50311642)
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研究分担者 |
長谷川 忠男 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 教授 (10314014)
井坂 雅徳 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 助教 (40336673)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | S. pyogenes |
研究実績の概要 |
次世シーケンサを用いて新型株の全ゲノム配列を決定し、(i) 新型株の特徴(病原性の違い)に影響を与えている可能性のある遺伝子fabTを同定するとともに、(ii) 新型株がmefAを含むファージ領域を保持していることを発見した。(i) S. pneumoniae と S. mutans の研究からfabTを含むfab領域は脂肪酸合成(Fatty Acid Biosynthesis: FAB) にかかわる酵素をコードしていると推測する。fabT自身は転写調節因子をコードしていると予想される。低病原性株は、fabTにアミノ酸置換を生じるような点突然変異を持っていた。高病原株のfabTを欠損させると、病原性と増殖能が大きく低下した。報告によると、S. pneumoniaeとS. mutansではFabTの機能が正反対である。S. pneumoniaeではfabK の転写を抑制することにより、不飽和脂肪酸の割合を増加させている。これに対し、S. mutansではfabM の転写を抑制することで、不飽和脂肪酸の割合を減少させている。本菌S. pyogenes では高病原株のfabT欠損株の解析の結果、fabKのmRNA量が増加していた。そして、不飽和脂肪酸を培地に添加することで、増殖能が回復した。これらのことから、S. pyogenesのfabTの機能はS. pneumoniae-type であると推測された。(ii) 既報によるとmefAはマクロライド系抗生物質の排出ポンプとして機能し、S. pneumoniaeにマクロライド耐性を付与する責任遺伝子であるとされている。しかし、我々の解析の結果、mefAを欠損させてもマクロライド耐性に大きな変化はなく、mefA直後に存在するmsrDが新型株のマクロライド耐性により大きな貢献を果たしていることを前年度に続いて解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書に記載した通り、本研究の最終目的は、「新型株の病原性の特徴について解析する」ことである。これを達成する手段として、申請書では、課題1と2を掲げた。課題1は、「高病原性と低病性の違いがfabT変異による増殖能の低下による可能性が濃厚であり」ほぼ達成されたといえる。課題2に関しては2年後(最終年度)に、もし課題1が終了していた場合実施する計画であったが、全ゲノム配列を解読したところ新たな二成分制御系因子の存在がないことが判明した。
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今後の研究の推進方策 |
申請書記載の本年度の計画は、「病原性の違いに影響を与えている遺伝子が調節遺伝子であった場合、この調節遺伝子の制御下にある遺伝子を明らかにしていく。これに関して、mRNA 量を測定する必要があるが、定量的RT-PCR 法と次世代シーケンサをもちいた網羅的な解析を組み合わせて行う。」であった。しかし、競合する他のグループが実施し発表してしまったので計画を変更し、プロテオーム解析に切り替える。但し、fabTの制御下にあると報告された遺伝子の中に、新規の病原因子が存在しない可能性がある(高い)。そこで、課題2を前倒しして、実施する。予想外の結果として、新型株が「mefAを含むファージ領域を保持している」ことを発見したが、この領域は機能未知の遺伝子を複数含んでいる。課題2の「spy1908 遺伝子を含む領域が担っている機能を代替する何らかの別の遺伝子」に相当するものがあるかを調査する。本研究の最終目的は、「新型株の病原性の特徴について解析する」ことである。現在、課題1、2が予定より早く決着する可能性があるので、本研究の目的を達成するため課題3を加える。現在予備実験において、「新型株のある遺伝子を欠損させると、病原性が大きく低下した」という結果を得ている。この遺伝子の機能解析を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
病原性の強い株と弱い株の全ゲノム配列の比較において、塩基配列の違いにより、異なるアミノ酸配列をコードすることになる候補遺伝子の数が多数生じることを予想していたが、実際は、fabTのみであったため、当該年度の解析費用が予想より少なかった。
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次年度使用額の使用計画 |
申請段階では予定していなかった、プロテオーム解析の費用に充てる。さらに、上記「理由」の通り、本年度以降の計画が予定より早く達成される可能性があるので、課題3を追加した。この費用に充てる予定。
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