研究課題/領域番号 |
15K09581
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
片山 由紀 順天堂大学, 医学部, 助教 (60365591)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 薬剤耐性菌 / 難治性感染症 / MRSA / 院内感染 / 抗MRSA薬 / バンコマイシン / slow-VISA / 緊縮応答 |
研究実績の概要 |
本研究は、全ての疾病に関わる人類の脅威“難治性感染症”の克服を目的とする。菌血症や院内感染の起因菌第一位の「難治性MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)感染症」は人類の脅威である。近年、第一選択薬のバンコマイシン(VCM)化学療法も奏功しない感染症再燃の症例が多数報告され、とくに造血器疾患をもつ易感染患者の場合は、敗血症や心内膜炎等による致死率が高い。しかし多数の症例報告数に比べ、その患者からほとんどVCM耐性菌は検出されず問題となっていた。 そこで我々は、 VCM耐性菌の検出法を改良し検討した結果、世界で初めて1)新規表現型の「slow-VISA(バンコマイシン中間耐性黄色ブドウ球菌)」を見いだし、2)それがMRSA感染症再燃機構に関与していることをin vitro条件下で証明した。3)slow-VISA は増殖が遅く72 時間以降に生育してくるがsmall colony variant とは異なる性質をもち、4)既存のVISA の耐性化機構と異なることがSNPs 、トランスクリプトームやメタボローム解析より示唆された(緊縮応答の違い)。 5)さらに、臨床分離MRSA 株からslow-VISA を検出するため、slow-VISAの検出方法を確立した(特許申請中)。 6)確立したslow-VISA 検出法により国内18施設における血液培養由来MRSA958株を調査したところ、現段階で 215株中45 株がslow-VISA と判定された。以上より、既存の世界基準の方法(CLSI) では、MIC を48時間で判定するためVISA の検出数が少なく、増殖の遅い薬剤耐性菌を検出できなかったことが示唆された。7)臨床データと相関性を検討したところ、slow-VISA を検出した菌血症患者の死亡率と相関していた。 現在、菌血症患者のslow-VISA の追跡調査を実施している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1)当初目的としていたslow-VISA の耐性化機構について、SNPs 、トランスクリプトームやメタボローム解析より既存のVISA と緊縮応答が異なることが判明した。さらにこれらの異なる緊縮応答機構を利用した方法を応用し、臨床分離MRSA 株からslow-VISA の検出方法を確立し国内特許に申請した。(今年度中に国際特許にも申請予定) 2)臨床ではバンコマイシンが奏功しない症例があるにもかかわらず、なぜVISA が検出されなかったのか。それには、slow-VISA の存在と、検出方法に問題があることが示唆された。確立したslow-VISA 検出法により国内18施設における血液培養由来MRSA958株を調査したところ、現段階で 215株中45 株がslow-VISA と判定されたが、既存の世界基準の方法(CLSI) では、VISA の検出率は5%以下である。なぜならCLSIのガイドラインではMIC を48時間で判定するため、増殖の遅いslow-VISA 薬剤耐性菌を検出できなかったからである。 3)また、slow-VISA とその検出された患者の臨床データと相関性を検討したところ、菌血症患者の死亡率と相関しており、slow-VISA (MIC>8) の菌血症患者はすべて死亡していた。 以上よりslow-VISA の認識し、感染症治療学および抗菌薬化学療法のガイドラインを検討する必要があることを見いだした。 4)slow-VISA の病原性の一つとして、バイオフィルム産生能と宿主細胞の貪食能を検討している。以上より、slow-VISA は、薬剤存在下において一時的な耐性化を示して存在していることが判明し、増殖速度の遅延や緊縮応答機構の関連遺伝子の変異やメタボローム解析から、総括的なネットワークが推測され、その機構を臨床応用して検出方法を開発した。
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今後の研究の推進方策 |
1)slow-VISA の耐性化機構の緊縮応答機構の詳細について、再現性ふくめメタボローム解析を行っている。 2)本実験は計画以上に進展したため、耐性化機構を利用した臨床応用tosite,slow-VISA の検出方法を確立し、実臨床の患者から分離されるslow-VISA 株の追跡調査(前向きコホート研究)を実施し、どのようにslow-VISA が出現するのか検討している。医師、薬剤師の臨床家と基礎研究者との共同臨床研究はすでに、当大学病院倫理委員会の承認を取得し、抗菌薬の使用歴、症状の経過ともに、起因菌、微生物叢の同定を実施している。 3)国外医療施設におけるslow-VISA の検出を行っている。(後ろ向きおよび前向きコホート研究)4)slow-VISA の病原性をみるため、バイオフィルム産生能の検討、 また研究費があればヒト細胞貪食能および宿主細胞への影響や免疫系撹乱作用等の検討をしている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画が予定以上に進行し、良い研究結果が導かれたため、論文投稿や発表、共同研究の打ち合わせや費用が嵩み、翌年度の研究計画から研究費が足りなくなったため次年度へ繰り越すことにした。当初目的としていたslow-VISA の耐性化機構について、SNPs 、トランスクリプトームやメタボローム解析より既存のVISA と緊縮応答が異なることが判明した。さらにこれらの異なる緊縮応答機構の詳細を解明していく。 また、その機構を応用した臨床分離MRSA 株からslow-VISA の検出方法を確立し国内特許に申請した。さらに、実臨床の検体から得られた起因菌の病原性をみるため、バイオフィルム生成能および、ヒト細胞貪食能および免疫系撹乱作用等の免疫系の研究を検討をするためには、当初計画していた研究費では足りないため前年度の研究費を次年度へ持ち越した。
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次年度使用額の使用計画 |
1)slow-VISA の耐性化機構の緊縮応答機構の詳細について、再現性ふくめメタボローム解析を行っている。2)本実験は計画以上に進展したため、実臨床の患者から分離されるslow-VISA 株の追跡調査(前向きコホート研究)をし、どのようにslow-VISA が出現するのか検討している。医師、薬剤師の臨床家と基礎研究者との共同臨床研究はすでに、当大学病院倫理委員会の承認を取得し、抗菌薬の使用歴、症状の経過ともに、起因菌、微生物叢の同定を実施している。 3)国外医療施設におけるslow-VISA の検出を行っている。(後ろ向きおよび前向きコホート研究)4)slow-VISA の病原性をみるため、バイオフィルム生成能および、ヒト細胞貪食能および免疫系撹乱作用等の検討をしている。
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