我が国を含むアジアからのHIV感染症患者と骨密度低下に関する報告は少ない。本研究は、基礎的・臨床的アプローチの両面から、cART導入早期の免疫系、特に単球・マクロファージやTリンパ球の活性化と骨密度の変化を検討し、骨密度の変化に関連する因子を解析することで、その分子機序を解明することを目的としている。現在までの国内外での研究から、cART導入時の骨密度の低下は明らかになりつつあるが、免疫学的な面では有意なものは明らかになっていない。 骨密度低下と関連のある臨床的指標の探索は、平成27年度からの研究と同様の解析を継続した。その結果、日本人男性HIV感染症患者で新規にcARTを開始した31例を対象に、cART開始直前と開始1年度の骨密度骨密度低下と関連のある因子の同定を行った。核酸系逆転写酵素阻害薬のテノホビルおよびプロテアーゼ阻害薬使用症例で骨密度低下が有意であった。またCD4陽性Tリンパ球が低い症例ほど骨密度の低下が大きかった。治療薬の因子を除外すると、CD4陽性Tリンパ球のレベルと関連を認めたことで、当初の推測通り臨床的な解析からは、骨密度の低下には何らかの免疫学的な影響が関与していることが裏付けられた。 新規にcARTを開始した5例について、cART開始4週目前後でのLPS刺激に対する単球の活性化の程度をIL-1betaの産生量を指標として、ELISA法を用いて解析を試みた。しかしながら、検索症例数が少ないこともあるが、IL-1betaの産生量とCD4陽性Tリンパ球のレベルとの間に関連は認めなかった。 3年間の本研究からは、cART開始1年間には骨密度が大きく低下するため、それを予防する方策を講じる必要があると考えられた。また骨密度低下とCD4陽性Tリンパ球のレベルとの間に関連があり、骨密度の低下には免疫学的な機序が関与していると考えられた。
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