研究実績の概要 |
研究計画:トリシン反応性宿主関連分子の宿主細胞内シグナル伝達経路について解析し、トリシンの抗HCMV作用の分子機構を明らかにする。 1) 昨年度までの研究で、HCMV感染細胞でMxA遺伝子(IFN誘導性遺伝子の一つ)の発現に対しトリシンが影響を及ぼす事を明らかにしたので、トリシンがMxA遺伝子発現を誘導するのかどうかについて検討した。HEL細胞をトリシンで処理した時のMxA遺伝子発現について調べた結果、トリシン処理後24時間でMxAのmRNA及びタンパク質が検出され、STATタンパク質のリン酸化も処理後8時間で検出された。このことから、抗ウイルス活性分子として知られているMxA遺伝子の発現を誘導する機構が、抗HCMV活性にも関係している可能性が示された。 2) HCMV遺伝子発現に対するトリシンの影響を調べるために、HCMVのIE、E、L各遺伝子の転写調節領域を組み込んだレポータープラスミドをHEL細胞に一時的に導入した細胞にトリシンを作用させると、各プラスミドのLuc活性はトリシン濃度に依存して抑制された。そこで、RNA polymerase II(RNA pol II)の活性化に重要なC-terminal domain(CTD)のリン酸化に対するトリシン効果をwestern blot法で調べた。感染細胞でのRNA pol IIのCTDの2カ所のリン酸化(Ser-2, Ser-5)がトリシンにより抑制された。さらに、CDK9のキナーゼ活性に対するトリシンの酵素活性阻害を、CDK9/cyclin K複合体を用いてin vitroで調べた結果、キナーゼ活性はトリシンの濃度依存的に阻害された。このことから、トリシンがCDK9のキナーゼ活性を阻害することでRNA pol IIの活性を抑制し、その結果、HCMV遺伝子の転写活性を抑制する分子機構が明らかとなった。
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