研究課題
エピジェネティックな発現調節機構の厳密な制御は脳の発達・成熟過程においてに必須である。遺伝的・環境的要因による調節機構の破綻が精神・発達障害の発症や病態に関与していることが知られている。エピジェネティクスは可逆的な機構であることから、がん、糖尿病、神経変性疾患の分野ではエピゲノムタンパク質を標的とした治療薬の開発が進んでいるが、精神・発達障害に対する治療薬開発はほとんど進んでいない。本研究では、代表的な自閉症疾患であるレット症候群患者のiPS細胞由来の神経細胞を対象に、エピジェネティクス関連分子を標的とした発達障害治療法及びハイスループットな薬剤スクリーニング系を構築し、効果的な発達障害治療薬開発のための基盤となる知見を獲得することを目的とする。平成27年度は脳内における遺伝子発現調節で重要であるヒストン脱アセチル化酵素1(HDAC1)の新規阻害化合物の探索を行った。本研究ではコンピューターシュミレーションにより設計・合成した新規HDAC1化合物48種類について、試験管内におけるHDAC1阻害活性測定をした。その結果、2種類の化合物XとYにおいて有意にHDAC1阻害活性効果があることが分かった。さらに細胞内におけるHDAC阻害活性を測定したところ化合物Xが有意にHDAC阻害活性を有していた。化合物Xは既存のHDAC阻害剤として使用されているバルプロ酸よりも低濃度で効果を発揮することもわかった。また化合物X処理によりHDAC1の標的遺伝子であるBDNFやSNAP25遺伝子の発現が上昇していることも見出した。今後はこの化合物Xが新規のHDAC1阻害化合物として精神・発達障害に利用できるかどうかを明らかにしていきたい。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度の研究予定であった既存のHDAC阻害剤によるiPS細胞由来神経細胞を用いた網羅的遺伝子発現解析や神経機能解析は現在進行中ではあるが、平成28年度以降に実施予定であったコンピューターシュミレーションによる新規HDAC1阻害化合物の設計・合成を行い、細胞内において効果のあった化合物Xを同定できた。また細胞内におけるHDAC1とMeCP2のタンパク質間相互作用を測定する系を構築できたことから、効果的なHDAC1阻害化合物のスクリーニングが可能になった。
レット症候群iPS細胞由来神経細胞を用いた新規HDAC1阻害化合物の効果の検討とこれらの細胞を使用したスクリーニング系の確立を行う。またゲノム編集技術を用いたレット症候群患者変異を導入したiPS細胞を作製し、さらに効果的な薬剤スクリーニング系の確立を目指す。
本年度は予定よりも順調に研究が進んだことと、次年度の研究推進のための人件費として使用を予定しているため。
実験補助員の人件費として使用する。
すべて 2015 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件) 備考 (1件)
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