研究課題/領域番号 |
15K09592
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
三宅 邦夫 山梨大学, 総合研究部, 講師 (60550712)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | エピジェネティクス / ヒストン修飾 / 抗精神病薬 / 発達障害 / 精神疾患 |
研究実績の概要 |
エピジェネティックな発現調節機構の厳密な制御は脳の発達・成熟過程において必須である。遺伝的・環境的要因によるこの調節機構の破綻が精神・発達障害の発症や病態に関与していることが知られている。一方でエピジェネティクスは可逆的な機構であることから、がん、糖尿病、神経変性疾患の分野ではエピゲノムタンパク質を標的とした治療薬の開発が進んでいるが、精神・発達障害に対する治療薬開発はほとんど進んでいない。 本研究ではエピジェネティクス関連分子を標的とした神経発達障害の分子メカニズムを明らかにし、効果的な発達障害治療薬開発のための基盤となる知見を獲得することを目的とする。 本研究の結果、平成27年度にコンピューターシュミレーションにより設計・合成し、in vitroでヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害を同定した新規HDAC1阻害化合物について、細胞内における活性を測定したところ、既存の化合物であるSAHAやVPAと比較して阻害活性が低かった。したがってHDAC阻害化合物の候補を再度検証する必要がある。一方で既存の抗精神病薬であるアミトリプチリンにエピジェネティクスを介した遺伝子発現変化することを見出した。初代培養神経細胞にアミトリプチリンを投与すると酸化ストレスに関する遺伝子などでヒストンアセチル化やメチル化が亢進することを見出した。さらにアミトリプチリン前投与によりアミロイドベータによる神経細胞死を抑制することを見出した。これらの結果から、抗精神病薬によるエピジェネティクス変化を介した神経細胞保護効果の可能性が示唆された。 今後はさらなる分子メカニズムの解明をし、疾患iPS細胞を用いた検証を行う予定である。また他の抗精神病薬によるエピジェネティクス効果並びに副作用の少なく、効果的な新規治療薬の開発を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度に設計したHDAC1阻害剤が、細胞内での活性が既存の化合物よりも低かったことから、平成28年度に再検証が必要になった。HDAC1は構造的に特異的な阻害剤を設計するのが難しいことから時間を要している。またiPS細胞を用いた薬剤処理による神経分化への影響を評価する系の条件検討に時間を要している。
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今後の研究の推進方策 |
HDAC1阻害剤の設計がうまく進まないことも考えられることから、他のエピジェネティクス関連分子にも範囲を広げること、既存の抗精神病薬のエピジェネティクス効果も評価することで新規エピジェネティクス薬開発の基礎的な知見を獲得する。iPS細胞を用いた薬剤処理による神経分化への影響を評価系は培地や培養器具の変更を含め最適なアッセイ系の構築を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していた学会発表に参加することができなかったこととiPS細胞の分化誘導法がうまく進まなかったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度の計画はiPS細胞の培地や培養法を変更し、神経分化誘導法を確立、薬剤のエピジェネティクス効果を見出すことを目標にし、研究成果を学会で発表する計画である。繰越金額は平成29年度研究費と併せて、消耗品や学会発表旅費に使用する予定である。
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