研究実績の概要 |
近年、高齢化や社会の成熟に伴って、発達障害や精神・神経疾患の重要性が高まっている。自閉症などの発達障害やうつ病などの多くの精神疾患の原因が神経ネットワークを構築するシナプス形成・機能異常であると考えられるようになり、現在、シナプス形成分子の仕組みを解明する研究が盛んに行われている。しかしながら、シナプス形成・機能にかかわる分子は数が多いことから、これらの分子を標的とした治療薬の開発は困難である。 一方、DNAのメチル化やヒストン修飾に代表されるエピジェネティックな遺伝子の調節機構の異常がこれらの疾患に関与していることもわかってきた。エピジェネティクス機構は可逆的な変化であることから、治療標的として有効であると考えられているが、発達障害や精神疾患におけるエピジェネティクス治療薬はまだ開発されていない。 平成29年度は既存の抗精神病薬におけるエピジェネティクス作用を明らかにし、 神経細胞機能への影響を検討することを目的とした。 初代培養神経細胞において各種の抗精神病薬処理により共通して発現変化する遺伝子をマイクロアレイ解析により抽出した。その結果、細胞死に関与する遺伝子であるAtf3, Hmox1を見いだした。さらにAmitriptylineはAtf3, Hmox1プロモーター領域のヒストンH3K4トリメチル化し、遺伝子発現が増加していることがわかった。またAmitriptyline前処理はアミロイドベータやMPP+による細胞死を抑制する効果があることを見出した。本研究結果から抗精神病薬であるAmitriptylineにエピジェネティックな遺伝子発現を変化させる作用があること、神経変性疾患による神経細胞死を抑制する効果がある可能性を明らかにした。今後、このような既存の薬物をもとにした特異的で効果の高い新規化合物の探索、開発が必要である。
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