研究課題
ミトコンドリア脂肪酸β酸化異常症はエネルギー産生不全におちいりやすく、急性脳症や乳幼児突然死さえ起こる。臨床病型は、①重症型、②中間型、③骨格筋型に分けられる。治療法向上を目的として、先天的β酸化異常症である極長鎖アシル-CoA脱水素酵素(VLCAD)欠損症とグルタル酸血症2型(GA2)の臨床病型と遺伝子型を調査した。今年度以下の成果が得られた。1)VLCAD欠損症:これまで我々が診断に関わってきた日本人症例50例の臨床病型と遺伝子型を検討したところ、重症型5例、中間型4例、骨格筋型30例があり、さらに新生児スクリーニングで発見され無症状で経過している④無症候型が10例あった。すなわち臨床的に軽症の骨格筋型と無症候型が41例(82%)を占めた。これに対し欧米人患者54例の報告では軽症型は54例中8例(15%)にすぎず、日本人患者は白人患者に比べて軽症型が多いという特徴があった。遺伝子型は共通の変異はほとんどなく日本人と白人では遺伝背景の異なることが明らかになった。2)GA2:欠損タンパクとしてETFA、ETFB、およびETF脱水素酵素(ETFDH)の3種類が知られている。日本人症例32例の欠損タンパクごとの死亡数は、ETFA欠損4例3例、ETFB欠損5例全例、およびETFDH欠損23例中10例であった。ETFDH欠損以外の症例の生命予後は極めてよくないことが明らかになった。ETFDHの1519T>G変異が22%にみられたがそれ以外にコモン変異は見られなかった。ETFDH欠損例でベザフィブラートの著効例があった。薬理作用についてさらに検討する価値がある。
2: おおむね順調に進展している
以前β酸化異常症の新規治療法として、高脂血症薬であるベザフィブラート(BEZ)の著効例を経験した。培養細胞とタンデムマス法を応用したin vitro probe (IVP) assayによってβ酸化異常症の代謝改善に効果のあることを示したが、臨床的な観察と必ずしも一致しなかった。この所見を解析するために、BEZ添加前後の定量的PCRと次世代シーケンサによるRNA-seqによってβ酸化酵素のRNA量の変化を調べたが、この方法によってBEZの効果を証明できるに至っていない。
1)日本人β酸化異常症の臨床型/遺伝子型の調査:昨年度2つの疾患に絞って臨床型と遺伝子型を調査した。他の異常症についてさらに研究を拡大したい。2)新規治療薬BEZの薬理作用:BEZ添加前後のβ酸化酵素のmRNA量の変化について動物由来の細胞でも評価したい。BEZの添加量によるβ酸化能の変化についても明らかにする。3)β酸化異常症の管理法の研究:β酸化異常症は、高熱時に悪化することが多い。低温下でのβ酸化能の変化を明らかにする。高熱時に増加するサイトカインのβ酸化に及ぼす影響を調べる。4)種々の薬剤のβ酸化への影響:疫学的にアスピリンによる小児のライ症候群発症リスクが報告されたことがある。解熱剤であるアスピリン(サリチル酸)、ジクロフェナク、メフェナム酸、およびアセトアミノフェンを正常細胞に添加して、IVP assayによってβ酸化能への影響を評価する。5)2年前に発見された新しいβ酸化異常症ECHS1欠損症の病態研究:β酸化異常症では急性脳症、骨格筋障害などを主徴とするが、ECHS1欠損症では、変性疾患のような臨床像を呈する。そこでこの疾患と他のβ酸化異常症の病態について、IVP assay、有機酸分析によって比較検討する。
当該年度で使用する消耗品等はほぼそろっていた。残金では購入できない金額のものを次年度で購入するため。
細胞培養用試薬
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (23件) (うち国際学会 12件、 招待講演 6件)
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