研究課題
ミトコンドリア脂肪酸β酸化異常症(FAOD)は、炭水化物からのエネルギー供給の低下した時などに発症することが多い。重症度は臨床的に以下の3つに分けられる。すなわち、①新生児発症致死型(重症型:乳児期早期から心筋障害などで発症して死亡率が高い)、②乳幼児発症間欠発作型(中間型:乳幼児期から感染などを契機に低血糖、肝機能障害、筋緊張低下などの発作)、③成人発症骨格筋型(遅発型:年長児~成人期から間欠的に起こる骨格筋症状)である。2014年度から我が国ではタンデムマスを導入した新生児スクリーニングがはじまり、発症前発見による障害予防事業が始まった。発見された後の治療法開発が重要となる。今年度以下の研究を進めて成果が得られた。1)FAODに対するベザフィブラート(BEZ)の効果: BEZ存在かと非存在下でqRT-PCRと次世代シーケンサーでRat fibroblasts中のβ酸化関連酵素のRNAの変動をみたところ、BEZ存在下で有意に増加したのは、PPARγ、CPT1A、HADのみであった。この方法によるRNA評価は臨床的効果と相関しないと思われる。2)BEZ添加量によるβ酸化能の変化:In vitro probe (IVP) assayではBEZの量を増やすとほとんどすべてのFAODで異常代謝産物の減少がみられた。しかし、放射性同位体を用いたβ酸化能は、BEZ添加量を増やすとかえって阻害されることが分かった。3)TFP欠損症の臨床経過と遺伝子型:日本人症例14例を検討した。新生児期発症7例中6例は生後3か月以内に死亡した。中間型2例、遅発型5例はいずれも生存中である。本症の重症度分類では中間型の割合が多く致死率の高い欧米人症例とは異なることが分かった。新生児スクリーニングの効果が期待できる中間型、遅発型の臨床経過と治療法開発についてさらに検討する必要がある。
2: おおむね順調に進展している
高脂血症薬であるベザフィブラート(BEZ)の臨床的効果と、定量的RT-PCR法、次世代シーケンサーによるRNA量の変化は必ずしも相関しないことが分かった。またBEZの添加量を増やすとこれまで行ってきたIVP assayでは異常が緩和されるかのような諸意見がみられたが、RIラベルの脂肪酸負荷によるβ酸化能を見るとかえって抑制することが分かった。BEZの薬理効果の解明に一歩前進した。日本人と欧米人のTFP欠損症患者の重症度・遺伝子型は明らかに異なることが分かった。治療法開発に参考になるエビデンスである。
1)β酸化異常症の管理法の研究:β酸化異常症は、高熱時に悪化することが多い。低温下でのβ酸化能の変化を明らかにする。日本人β酸化異常症の臨床型/遺伝子型の調査:昨年度2つの疾患に絞って臨床型と遺伝子型を調査した。他の異常症についてさらに研究を拡大したい。2)種々の薬剤のβ酸化への影響:疫学的にアスピリンによる小児のライ症候群発症リスクが報告されたことがある。解熱剤であるアスピリン(サリチル酸)、ジクロフェナク、メフェナム酸、およびアセトアミノフェンを正常細胞に添加して、IVP assayによってβ酸化能への影響を評価し、FAODに対する薬物の安全使用法を確立する。3)2014年に発見された新しいβ酸化異常症であるクロトナーゼ(ECHS1)欠損症の診断法・病態解明:臨床的にLeigh脳症を示し本症と診断した日本人症例が6例以上蓄積している。質量分析法による診断法の開発、IVP assay等による病態解析を行う。4)FAODの重症型は治療に抵抗して致死的なことが多い。このようなケースでは次子の情報を希望する家族にとって、出生前診断による情報提供を含む遺伝カウンセリングが重要な意味を持つ。FAODの出生前診断法を確立する。5)FAODの治療法としてカルニチンの効果は議論されている。また長鎖β酸化異常症に対するMCT療法などが言われている。長期間の患者の追跡によりこれらの治療効果を明らかにする。
当該年度で使用する消耗品等はほぼそろっていたため、予定していた使用額を下回り、また出張費も予定より少なく済んだ。残金では購入できない金額のものを次年度(最終年度)の消耗品費、論文作成費、出張費用に充てる
残金では購入できない金額のものを次年度の消耗品費、また研究最終年度のため成果発表のため論文作成費、出張費用に充てる
すべて 2016 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 5件、 招待講演 2件)
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