研究課題/領域番号 |
15K09597
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
宮原 弘明 大分大学, 医学部, 助教 (00457615)
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研究分担者 |
井原 健二 大分大学, 医学部, 教授 (80294932)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ミトコンドリア病 / Leigh脳症 / ミトファジー / オートファジー |
研究実績の概要 |
オートファジー(自食作用)とは飢餓などのストレス条件下において誘導される、不要な細胞内小器官や蛋白を包み込んで消化し再利用する細胞内のリサイクル機構である。細胞内の品質維持のために必須の機能として注目され、近年では腫瘍・神経変性疾患・老化など様々な分野で盛んに研究されており、これまでの研究成果としてオートファジーを促進的(エベロリムスやラパマイシン)もしくは抑制的(3-メチルアデニン)に制御できる薬剤が開発されその実用化も進んでいる。申請者は過去に結節性硬化症の中枢神経病変におけるオートファジー機能不全の存在を見出し報告した。本研究ではミトコンドリア病の一つであるLeigh脳症におけるミトコンドリア選択的オートファジー(ミトファジー)の役割を明らかにし、ミトファジーを制御することによる合理的な治療法の開発を目指す。具体的には、Leigh脳症患児から培養線維芽細胞株を樹立し、LC3タグ付け緑色蛍光蛋白(GFP-LC3)を用いたリアルタイムのミトファジー観察、ミトファジー関連蛋白や遺伝子の解析、および、ミトファジー制御によるLeigh脳症病変の治療効果の検討、を行う。不良ミトコンドリアを除去することで症状の改善を期待できるという発想から、ミトファジーの制御がLeigh脳症の根本治療になりうると考えている。本研究では、Leigh脳症の患児から得た培養繊維芽細胞株を用いて、Leigh脳症におけるミトファジーの役割を明らかにし、ミトファジーを制御することによるLeigh脳症の有効治療の確立を目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
平成29年度はLeigh脳症患者と正常対照から樹立した線維芽細胞を用いて、以下の実験を行った。まず、Leigh脳症と正常対照の線維芽細胞をストレスフリー環境(RPMI+10%FBS+PSA)で継代培養し、オートファジー活性をウェスタンブロットにて解析した。Leigh脳症の線維芽細胞はストレスのない培養環境においてもオートファジーの活性が亢進しており、Leigh脳症の基礎病態である不良ミトコンドリアの存在が示唆された。次に、過酸化水素を用いて酸化ストレスを与えたうえで細胞増殖能を評価したところ、過酸化水素濃度依存性に細胞増殖能が低下し、Leigh脳症線維芽細胞におうて有意に細胞増殖能が抑制された。現在は、過酸化水素を負荷してオートファジーが誘導されるかウェスタンブロット法とオートファジー関連抗体(抗LC3抗体、抗リン酸化S6抗体、抗リン酸化Akt抗体、抗p62抗体)を用いて評価すべく実験中であり、蛋白抽出液の状態で凍結保管している状態である。これらのサンプルを用いて、平成30年度にウェスタンブロットを行う予定としている。 研究が遅延した一つの理由としてLeigh脳症の線維芽細胞は繊細で環境変化に弱く安定的に培養を維持することが困難であったことが挙げられる。この点は当初予期していなかったが、本研究の遂行の遅れに少なからず影響があった。それに加えて、平成28~29年度は大分大学小児科学講座の医局長に任命され臨床業務や医局運営など研究以外の業務が多忙であったため、予定よりも研究の進捗が遅くなり平成29年度以内に同研究課題を完了することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況を踏まえて、平成30年度も同課題を継続するため期間延長申請を行いその承諾を得た。平成30年度より愛知医科大学加齢医科学研究所に所属を移し小児科の臨床や医局運営から完全に解放されたため、これまでよりも本研究にエフォートを割くことができるようになると期待している。前述の通り、Leigh脳症の線維芽細胞は取り扱いが難しいため、今後も培養細胞を用いた研究が想定通りに進まない場合も想定される。細胞実験が想定通りに進まないときの代替案として、愛知医科大学加齢医科学研究所に保管されている20~30例のミトコンドリア病(Leigh脳症を含む)の剖検脳のパラフィン包埋切片を用いて、抗LC3抗体や抗ミトコンドリア抗体の二重蛍光免疫染色を行うなど免疫組織学的な研究手法に移行することも視野に入れている。研究にエフォートを割くために自身の労働環境を整備したことと、ミトコンドリア病の剖検脳を用いて病理学的な研究を行える研究施設に身を置くことによって、本研究の推進を図り、平成30年度までに成果を論文の形にまとめたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
Leigh脳症の線維芽細胞が培養環境の変化に弱く安定した細胞培養実験が想定よりも難しかったことに加え、平成29年度は大分大学小児科学講座の医局長に任命され臨床業務や医局運営など研究以外の業務が多忙であったため、予定よりも研究の進捗が遅くなり平成29年度内に同研究課題を完了することができなかった。 そのため、平成30年度も同課題を継続するため期間延長申請を行い、その承諾を得たために次年度使用額が生じた。平成30年度にはこれまで行ってきた線維芽細胞の培養実験に並行して、移籍先である愛知医科大学加齢医科学研究所に保管されている数十例のミトコンドリア病の剖検脳を用いた病理学的な研究を行っていく予定としている。 研究施設へ移籍したため、培養実験や病理学的実験を行うために必要な基本的設備は整っており、購入の必要はない。よって、繰り越した予算に関しては、前述の細胞培養実験や病理学的実験に必要な培地や抗体などの消耗品・試薬の購入に充てる予定としている。
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