研究課題/領域番号 |
15K09600
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
大橋 十也 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (60160595)
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研究分担者 |
嶋田 洋太 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (20560824)
樋口 孝 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (30595327)
小林 博司 東京慈恵会医科大学, 医学部, 准教授 (90266619)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 遺伝・先天異常学 / 先天代謝異常学 / 酵素補充療法 / 免疫寛容 |
研究実績の概要 |
先天的に酵素が欠損した個体にとって、治療として投与される酵素は免疫系にとって異物として認識される可能性がある。ライソゾーム病に対する酵素補充療法(ERT)でも、経過中に中和抗体が生じる事が報告されており、中和抗体が治療効果を阻害する可能性が指摘されている。そこで、B細胞の成熟に必須の因子であるBlySに対する抗体である抗BlyS抗体に着目して、酵素に対する抗体産生を抑える安全な免疫抑制方法の検討を行った。ERT中のファブリー病モデルマウスに対して、抗BlyS抗体100μgを2回投与したところ、一過性のB細胞の減少および抗体価の減少が認められた。ERT開始前に抗BlyS抗体を投与した群では、ERT開始後に投与した群に比較してより抗体価減少の期間がより長期間見られたが、最終的にはいずれの群でも抗体価の上昇が観察された。既存の免疫抑制剤との併用効果を検討するため、酵素補充に少量のメトトレキサートを組み合わせたところ、抗BlyS抗体との併用によって長期間にわたり抗体産生を抑制することが可能であった。さらに、抗BlyS抗体を少量(15μg)持続投与したところ、長期間にわたりB細胞の減少が見られたが。20%程度のマウスでは抗体価の上昇が抑えられたが、全体としての抗体価の上昇は抑制されなかった。そこで、強力な外来抗原に対して抗BlyS抗体の作用が不足していると考え、中等量(30μg)および大量(60μg)を持続投与したところ、抗体価の上昇が抑制された。中等量および大量投与によって50%程度のマウスで抗体価の上昇が抑制された。 抗体価の上昇が抑制されたマウスの臓器を解析したところ、腎臓での優位な酵素活性の上昇ならびに蓄積物質の減少が見られた。 以上の結果より、抗BlyS抗体の持続投与によってERT中の抗体価の上昇が抑制され、結果的に腎臓でのERTの効果が改善されることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
B細胞の成熟に必須の因子であるBlySに対する抗体である抗BlyS抗体に着目しての、ファブリー病酵素補充療法において酵素に対する抗体産生を抑制し、治療効果も増大させることが、ファブリー病モデルマウスを使用した実験で明らかとなった。この研究は非常に順調に経緯し、期待通りの結果が得られた。 一方、ヒトCD3発現ポンペ病モデルマウスの作成は開始出来なかった。理由としては抗ヒトCD3抗体(otelixizumab)によりワイルドタイプのマウスでの酵素補充療法における酵素製剤に対する抗体産生抑制は、当初、良好な結果が得られていたが、その後の確認実験で十分な再現性が得られなかった。理由としては、本マウスはヒトならびにマウスのCD3を両方発現しているためと思われた。マウスCD3をノックアウトする事も考えたが、それではT細胞は胸腺いおいてマウスのリガンドと結合できないためT cell educationが不能となる。そのため特別な配慮が必要であることが判明した。以前同様の試みをしたケンブリッジ大学のProf Alan Tunnacliffeと現在方策を協議中である。それまで一時的にこのプロジェクトは停止することとした。その代わりのプロジェクトは以下に記載する。
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今後の研究の推進方策 |
抗ヒト抗ヒトCD3抗体(otelixizumab)が、当初の予定より時間がかかることが予測されるため、その代替としてポンペ病の欠損酵素を発現する、植物細胞による経口免疫寛容導入療法を開発する。我々は以前に、酵素製剤を経口投与することによりポンペ病の酵素補充療法において非常に効率良く免疫寛容が導入出来ることを明らかにしている。ただ大量の酵素製剤が必要であった。そこで我々は酵素を植物細胞に発現させ経口投与し免疫寛容の導入を目指す。この着想に至ったのは丁度、他の研究で、酵素製剤を植物細胞で作成している他大学の教室との共同研究が始まったからである。上記プロジェクトはライソゾーム病の酵素補充療法において、酵素製剤に対する免疫寛容を導入し効果的な酵素補充療法を開発するという、申請内容と合致するものであると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
ヒトCD3発現ポンペ病モデルマウスの作成が上記の理由で開始できかなったため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
現在、その代替策として上記の組換え植物細胞を使用した免疫寛容導入法を検討している。その為にマウス購入、飼育費などが生じると思われる。またケンブリッジ大のProf. Alan Tunacliffeとの協議にもよるが、ヒトCD3のみ発現するマウスの作成、飼育にも費用がかかる可能性がある。次年度使用金はその為に用いる予定である。
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