本研究の目的は、レット症候群の退行現象の解明へと繋がる成熟シナプスの維持機構の分子基盤を解明することである。これまでに、基礎実験として、視覚経路である網膜―外側漆状体のシナプスの発達・成熟期(生後10日より50日まで)におけるMeCP2およびmGluR1タンパク質の発現および視覚経験による影響をウエスタンブロット法・免疫染色法により検討し、MeCP2タンパク質は抑制性介在ニューロンでは生後10日から生後50日齢までほぼ同レベルの発現量であるのに対し、中継ニューロンにおいては生後20日から生後30日の間で有意に発現が上昇することを明らかにした。さらに、この発現上昇は視覚経験遮断により抑制されることを明らかにしている。今年度は、上記の研究結果を論文にまとめた。現在、国際誌に論文を投稿中である。また、成熟後のシナプス維持に必須の因子を探索するスクリーニング系の立ち上げも行った。目的のニューロンの翻訳中RNAのみを回収する方法(Ribosomal Affinity Purification :TRAP法)を用いて、感覚入力遮断時に中継ニューロン特異的に発現変化するmRNAを網羅的に解析する環境を整えているところである。現在は、視床の中継ニューロン特異的にCreを発現するPkcd-CreマウスとCre依存的にHAタグ付きリボソーム構成タンパク質(Rpl22)を発現するマウスを交配中である。また、マイクロスライサーおよびニューロパンチによる視床中継核のdissection法も確立しており、マウスの準備が整い次第、スクリーニングが開始可能となっている。
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