研究課題
異染性白質ジストロフィー(MLD)の遺伝子治療法を確立し、早期の臨床応用を目指す。MLDは広範な脱髄と神経変性を特徴とし、最も多い後期乳児型では歩行障害で発症し、精神運動発達遅滞・退行、痙性四肢麻痺が加わり最後は除脳硬直状態となる重篤な疾患である。欠損酵素はライソゾーム酵素であるが、血液脳関門(BBB)のため酵素補充療法による神経症状の改善は期待できない。よって神経変性疾患を治療するためにはBBBの壁を越える新しいアプローチが必要である。本研究では脳全体の広範囲な神経変性を伴うMLDモデルマウスをもちいて、非侵襲的かつ安全で、脳神経組織に対する長期の酵素補充療法が出来る革新的な治療法の開発を目的とする。具体的には我々のこれまでの研究成果を踏まえ、BBBを効率よく通過するための画期的な方法による、成体の神経症状の新規治療法の確立をおこなう。当該年度に実施した内容は、脳神経組織に親和性の高いAdeno-associated-virus (AAV)ベクターの改良として、①今までsingle-strand AAV ベクターを使用していたが、よりBBB を通過可能な、self-complementary AAV (scAAV) ベクターを作製した。②さらに、AAVには1-12までの血清型があるが、成体マウスに静脈注射しどの血清型がよりBBBを通過出来るかの検討を行った。③また長期に治療蛋白が発現出来るようプロモーターの改変を行った。④治療蛋白の改変としてASA-Tat キメラ蛋白質の作製(細胞膜通過活性をもつTat 配列を組み込んだキメラ蛋白質が細胞膜を通過して、広い範囲の組織に移動できることが知られているためASA 活性を保持したままで、BBB を通過できる分子)の作製を行った。
2: おおむね順調に進展している
神経症状を呈する成体マウスの新規治療法の確立として1)治療用AAV ベクターの改良:BBB を通過可能な血清型の検索、self-complementary AAV (scAAV)ベクターを作製した。2)治療蛋白の改変:ASA-Tatキメラ蛋白質発現AAV vectorを作製した。改良を行ったAAVベクターを成体マウスへ投与を行った。
前年度改良した治療ベクターを疾患モデルマウス(成体MLD マウス)へ投与したので、今後、BBB通過検討の評価を機能解析、治療効果判定(① 血中の治療蛋白をELISAにより測定② Balance Beamテストによる行動実験③ Alcian Blue染色によるスルファチドの蓄積の確認④ Thin-layer chromatography assayによるスルファチドの定量⑤ 各臓器での治療蛋白発現の定量⑥ 抗体染色による神経細胞での治療蛋白の発現)を行う。また、BBB通過のメカニズムをin vitro BBB kitをもちいてウイルスベクター及び蛋白の透過性を評価する。また、治療法の確立のみならず、治療効果が得られた場合はさらに長期に観察する事により、肝機能(血中GOT、GPT)腎機能(BUN、Cre)などの経時的な測定、各組織から抽出したDNA からリアルタイムPCR 法によるベクターの分布(特に生殖系組織への遺伝子導入の有無)、腫瘍の発生の有無などを検討し、安全性を評価する。十分な治療効果が得られない場合は前年度改良、改変を行った新規ベクターでの治療、標的細胞の改変、さらには投与方法の検討、相乗効果の検討を行う。安全でかつ効果の得られた方法にて臨床応用のプロトコールを作製し、早期の臨床応用をめざす。
国際学会に参加することが出来なかったこと、見積もりより安い金額にて購入出来たため差額が生じた。
次年度に使用予定。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) 図書 (1件)
Hum Gene Ther.
巻: 26 ページ: 801-12
10.1089/hum.2015.078.
Sci Rep.
巻: 18 ページ: 1-12
10.1038/srep13104.