研究課題/領域番号 |
15K09606
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研究機関 | 明治薬科大学 |
研究代表者 |
櫻庭 均 明治薬科大学, 薬学部, 教授 (60114493)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 遺伝学 / 改変酵素 / バイオテクノロジー / ファブリー病 / 酵素補充療法 |
研究実績の概要 |
α-ガラクトシダーゼA (GLA)欠損に起因するファブリー病に対する治療として、組換えGLAを用いた酵素補充療法 (ERT) が有効である。しかし、ERTにより、しばしば患者の体内に抗体が産生され、有害免疫反応や治療効果減弱が起こることが臨床で問題になっている。そこで、GLAの代わりに、ファブリー病患者がもともと体内に有するα-N-アセチルガラクトサミニダーゼ (NAGA) の立体構造の一部を改変して、GLA 活性を持つ新規組換え酵素を開発することで、ファブリー病新規治療薬の創出を目指した。 NAGAを構成するアミノ酸のうち、基質認識に関係する2アミノ酸残基を置換した改変型 NAGA (Mod. NAGA) を分子設計し、無血清培養液を用いた浮遊CHO細胞での大量生産系を確立した。この生産系で培養液中に分泌される改変型NAGAを、カラムクロマトグラフィー法で精製した。精製されたMod. NAGAは、糖タンパク質で、オリジナルのNAGA が持たないGLA活性を有すこと、また、その糖鎖末端には当該酵素の細胞内取り込みに関係するマンノース6-リン酸残基が存在することを確認した。Mod. NAGAは、GLAに比べて緩衝液中や血液中で高い安定性を示し、両者の抗原性は異なることを明らかにした。Mod. NAGA による治療効果と安全性とを調べるための実験動物として、新たにヒトNAGAトランスジェニック・GLAノックアウトマウスを作製し、その系統維持を行った。肝臓特異的に発現するアルブミンプロモーター下流にヒトNAGA遺伝子を組み込んだ発現ベクターをGLAノックアウトマウスの受精卵に注入し、生まれたマウスの肝臓においてヒトNAGAが発現していることを、ウェスタンブロット法および免疫染色法で確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画に基づき、研究初年度(平成27年度)は、ファブリー病の新規治療薬候補としてのMod. NAGAを大量生産する系を作製し、当該酵素を精製して、その生化学的性状を明らかにすると共に、治療効果と安全性とを調べるための実験動物を作製し、系統維持することを目標として、研究を行った。 その結果、無血清培養液を用いたCHO細胞の浮遊細胞培養系で、Mod. NAGA を大量生産 (産生効率:約20mg/L) し、カラムクロマトグラフィーで効率的に精製する方法を確立した。また、精製したMod. NAGAを試料とした生化学的解析で、同酵素の基質特異性が転換し、その安定性や細胞内取り込みおよび抗原性に関する性質がファブリー病治療薬に適していることを示した。これにより、本酵素が、次年度以降の研究に使用可能であることが証明された。 また、ヒト由来の酵素であるMod. NAGAを投与した際、ファブリー病患者と同様の状態(GLA欠損、且つ、NAGA保持)にあって、治療効果と安全性とを調べる対象となるヒトNAGAトランスジェニック・GLAノックアウトマウスを作製したことにより、次年度に計画した動物実験を予定通り進めることが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
研究第2年度(平成28年度)には、Mod. NAGAの治療効果と安全性とを、細胞および動物を対象として解析する。 ファブリー病モデルマウス胎児由来の細胞から、標準法によりiPS細胞株を樹立し、心筋組織へ分化誘導する。各種の心筋細胞マーカーおよび自律的収縮/弛緩運動の有無により、心筋に分化したことを確認した後、心筋細胞および対照となる線維芽細胞の培養液中に、改変型NAGAを各種濃度で添加して、これを培養する。一定期間の培養後、細胞内のGLA活性の測定を行い、ファブリー病由来の心筋細胞および線維芽細胞への改変型NAGAの取り込み機構とその効果について明らかにする。 また、ヒトNAGAトランスジェニック・ GLA ノックアウトマウスに対して、改変型NAGAを、尾静脈から血管内に継続投与する。その後、血液および肝、腎、心などの臓器を採取し、液体クロマトグラフィー/タンデム型質量分析法で、ファブリー病における主要蓄積物質であるグロボトリアオシルセラミドやグロボトリアオシルスフィンゴシンの含量を測定する。また、各臓器組織の電子顕微鏡観察により、ファブリー病に特徴的な層状封入体の有無を解析する。さらに、各種免疫グロブリンの産生状況と有害免疫反応(症状の確認や血中ヒスタミン測定など)の有無について解析する。 研究最終年度(平成29年度)には、ファブリー病に対するERT継続中に起こり得る免疫反応に関して、詳細な情報を得るため、GLAおよびMod. NAGAと夫々に対する抗体とを試料として、ELISA法および表面プラズモン共鳴法で抗原-抗体反応を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究初年度の研究費の支出において少額 (5,725円) の残金が生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の物品費に加えて、有効利用する。
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