α-ガラクトシダーゼA (GLA)欠損に基づくファブリー病に対して、ヒト組換えGLAを用いた酵素補充治療(ERT)が行われているが、その際、しばしば患者に抗体が産生され、アレルギー反応や治療効果の減弱がみられている。そこで、 有害免疫反応を呈さないERT 用酵素薬の創出を目指して研究を行った。 研究初年度は、α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ(NAGA)の基質認識部位を修飾して、新たにGLA活性を持たせた改変型NAGAを、無血清培養条件下での浮遊CHO細胞培養系を利用して大量生産する系を確立した。 研究第2年度は、精製した改変型NAGAを、GLAノックアウトマウス由来のiPS 細胞から分化させた培養心筋細胞や線維芽細胞に投与し、従来欠損していたGLA活性が回復することを示した。更に、改変型NAGA を、若齢のヒトNAGAトランスジェニック・GLAノックアウトマウスに複数回投与し、臓器内に蓄積していた糖脂質が分解され、且つ、当該酵素に対する抗体産生が起こらないことを明らかにした。 研究最終年度(今年度)は、ヒトGLAおよび改変型NAGAに対する抗血清を作製し、これらと夫々の抗原との間の分子間相互反応について、表面プラズモン共鳴法で解析した。その結果、夫々の抗原と抗体間の反応における結合の強さや結合速度はほぼ同等であり、且つ、GLAと改変型NAGAとの間の交差反応は起こらないことが示された。従って、GLAと改変型NAGAの抗原性は異なることが証明された。 本研究で開発した改変型NAGAは、ヒト組換えGLAを用いたERTにおいて、有害免疫反応を呈するファブリー病患者に対する新しい治療薬となり得ると考えられる。
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