研究課題/領域番号 |
15K09608
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
松石 豊次郎 久留米大学, 付置研究所, 教授 (60157237)
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研究分担者 |
高橋 知之 久留米大学, 医学部, 准教授 (20332687)
御船 弘治 久留米大学, 医学部, 准教授 (70174117)
山下 裕史朗 久留米大学, 医学部, 教授 (90211630)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 発達障害 / レット症候群 / 自閉症スペクトラム / 自律神経 / ジストニア / 振戦 / グレリン |
研究実績の概要 |
レット症候群(RTT)は発達障害の代表疾患であり、知的障害、成長障害、自律神経障害、睡眠障害、突然死など多彩な症状を示すが病態は不明で有効な治療法はない。本研究では以下の3点に取り組み幾つかの新知見が得られた。1.典型的なRTT では、Methyl CpG binding protein2 (MECP2)の変異が8 割に認められる、非典型例ではFOXG1, CDKL5 遺伝子が原因遺伝子である事が報告されているが、その割合は1%以下にも満たず、残りの原因遺伝は不明である。我々は、新たにHDAC8、STXBP1遺伝子のdenovo変異で本症が発症する事を明らかにした。2.RTT児・者は対照の同年代の女性に比べて生命予後が悪く、早く死亡する事がオーストラリア、米国から報告されている。毎年、RTT児・者の1.2%が亡くなり、26%は予期せぬ突然死である。その原因は不明であるが、その一つに、誤嚥性肺炎、肺炎などが報告されているが、詳細な機序は不明である。われわれは誤嚥性肺炎、呼吸器感染症の発症メカニズムをモデル動物を用いて解明した。3.更に、RTTでは未だ症状の根治、症状改善の有効な治療法は確立されていない。諸外国で基礎-臨床研究を元に新規治療法の開発にしのぎを削られているが、未だヒトのRTTで有効な治療法レット症候群は確立されていない。われわれは、本邦で発見され、成長ホルモン分泌促進、食欲亢進、自律神経の調整に働くグレリンが有効であるという仮説を立てて4人の成人のRTT患者に投与した。全例、重篤な副反応もなく、全員で便秘の改善、食欲増加が道められた。一人は2年以上、他の一人は1年間にわたり、難治の錐体外路症状である、ジストニア、振戦の著明な改善、および血管運動反射を認めた1人の患者で改善が認められた。グレリンは安全に投与でき、新たな治療法として役立つ可能性が判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
典型例レット症候群(RTT)の原因遺伝子は、MECP2)の変異が8 割、非典型例ではFOXG1, CDKL5 遺伝子が原因遺伝子である事が報告されているが、残りの約15%の原因遺伝は不明であった。我々は、新たにSHANK3、HDAC8、STXBP1遺伝子のdenovo変異で本症が発症する事を明らかにした。SHANK3は既に論文として報告し、HDAC8、STXBP1も投稿中である。2.RTT児・者が、誤嚥性肺炎、肺炎をおこしやすく、突然死に繋がる機序の解明をモデル動物を用いて分子生物学的、病理学的、神経伝達免疫病理を用いて解明し、サブスタンスPなどが関与している事を明らかにし、現在投稿しRevise中である。3.同時にRTTの新規治療法開発を進めており、パイロット研究として、4人の成人のRTT患者に3μg/kg/日を投与3日間静脈投与し、維持療法として3週間ごとに2日間連続で投与した。全例、重篤な副反応もなく、全員で便秘の改善、食欲増加が道められた。一人は2年以上、他の一人は1年間にわたり、難治の錐体外路症状である、ジストニア、振戦の著明な改善、および血管運動反射を認めた1人の患者で改善が認められた。グレリンは安全に投与でき、新たな治療法として役立つ可能性が判明した。グレリンによる新規治療法開発は、国際特許も申請し、既に公開された。また、最新号の海外のRTT研究ニュースでも取り上げられている。 ヒトのRTT患者さんの6名で、京都大学との共同研究で、典型例RTTの原因遺伝子のT158M、軽症例のR133C、R306CのiPS細胞を既に作成し、今後のRTTの病態解明、グレリンでの中枢神経系での治療効果判定の基礎が確立できた。
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今後の研究の推進方策 |
原因不明のRTT、Rett-related disorderに関しては、男児発症例も1例解明中で、血液、爪、毛根、唾液で体細胞の異常、モザイク状態を検討中である。新たにSHANK3、HDAC8、STXBP1遺伝子のdenovo変異で本症が発症する事を明らかにしたので、RTTの遺伝子異常に関する全体のまとめを行い、共同研究を進める。SHANK3、HDAC8、STXBP1も国内の多施設共同研究で推進する予定である。2.RTT児・者が、誤嚥性肺炎、肺炎をおこしやすく、突然死に繋がる機序の解明をモデル動物を用いて分子生物学的、病理学的、神経伝達免疫病理を用いて解明し、サブスタンスPなどが関与している事を明らかにしたが、サブスタンスP,グレリンなどを用いて、モデル動物のES細胞、iPS細胞、患者さんから得られたヒトiPSを用いて、細胞レベルでの評価をおこなう。3.RTTの新規治療法開発では、今後、10例で、Double-blind randomized control crossover trilaで検討予定である。RTT患者さんは、血管確保が困難な事が多いので、今後、実行可能性、利便性を高めるため、皮下投与での低用量群、高用量群、プラセーボでの検討をおこなう予定であり新たな倫理委員会の審査を検討中である。得られた結果を元に、新たな特許を申請する。今後、10例での検討は、Double-blind randomized control crossover trilaで検討予定である。RTT患者さんは、血管確保が困難な事が多いので、今後、実行可能性、利便性を高めるため、皮下投与での低用量群、高用量群、プラセーボでの検討をおこなう予定であり新たな倫理委員会の審査を検討中である。更に、RTT患者で多い、呼吸、自律神経の機能評価法の開発も同時に検討予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は、予定していた消耗品の中で、唾液メラトニン濃度の経時的測定、コーチゾール測定、細胞研究レベルでのiPS,ES関係の消耗品の支出が、当初予想していたよりも、測定法、実験手法の確立に手間がかかり少なくなった。ヒトiPS細胞樹立、保存、その他の費用も倫理委員会の期限切れもあり、再度提出し手間がかかり、一部再開が遅れたため、購入を控えて翌年の一括購入に変更した。今年はストックした唾液を用いたバイオマーカー測定(唾液メラトニン、コーチゾール)、および血漿のグレリン,IGF-1測定を行うキット購入で大幅な支出増が見込まれている。また、治療研究のためのグレリン購入も予定していた患者数より少なかったため資金の繰り越しに回した。また、レットの国際シンポジウムが神戸、久留米での開催をしたため、宿泊、旅費も大幅に節約できた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は、消耗品の中で、唾液メラトニンの経時的測定、コーチゾール測定を、ストックしていた検体での測定を一気に行う予定である。グレリンを用いた、iPS,ES関係の研究を行うため、消耗品の支出が大幅に増える予定である。ヒトiPS細胞樹立、HIV,肝炎ウイルス、その他の感染チェックで必要経費が増える。今年はストックした唾液を用いたバイオマーカー測定(唾液メラトニン、コーチゾール)、血漿のグレリン、IGF-1測定を行うキット購入予定であり、大幅な支出増が見込まれている。また、治療研究のためのグレリン購入も予定していた患者数より少なかったが、今年は7人以上の患者さんで計画しており、大きく櫃予算が増える予定である。また、レットの国内・国際共同研究を推進するため、旅費、宿泊費、および動物飼育を手伝う人の謝金雇用も大幅に増える予定であるため、モデル動物の世話の謝金にも充てる予定である。
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