研究課題
HIBCH欠損症では、バリン代謝が亢進するとミトコンドリアにバリン代謝の中間産物であるmethacrylyl-CoAが蓄積し、チオール(SH)化合物やタンパク質のSH基と結合することで、細胞に重篤な機能障害が生じる。本研究では、methacrylyl-CoAがSH基と結合するという化学的性質に注目し、ミトコンドリアで減少するSH化合物を増加させる化合物と脳神経のエネルギー産生を亢進させる化合物に関する研究を行い、本欠損症の治療法の開発を目指す。今年度は、1)治療効果を評価するためのHIBCH欠損症モデルの構築を目指した。Hibch exon4に特異的crRNAを作製後、本欠損症のモデルとなるHibch欠損マウスの作製を山形大学遺伝子実験センターに委託した。2)免疫学的測定法によりmethacrylyl-CoAがSH基と結合してできた化合物を検出(定量)するための、抗体作成を試みた。抗原としてグルタチオンSトランスフェラーゼとmethacrylyl-CoAを反応させた生成物を用いたが、免疫学的測定法に用いることができる抗体は得られていない。3)HIBCH欠損症では、発熱後に急性増悪が見られる。この病因を明らかにする目的で以下の計画を立て、研究を行った。発熱時には解糖系のみではなくバリンを含むアミノ酸の異化経路からもエネルギーを産生するため、HIBCH欠損症では発熱時にmethacrylyl-CoAが過剰に蓄積して症状が増悪すると考えられる。バリン代謝経路の律速酵素は、分枝鎖ケト酸脱水素酵素であり、その活性を制御する因子(E1α)の293番目のSerが脱リン酸化されると分枝鎖ケト酸脱水素酵素の活性が上昇する。そこで、分枝鎖ケト酸脱水素酵素の活性を免疫学的測定法で評価するために、293番目のSerがリン酸化したE1αに対する抗pS293-E1α抗体の作製を行った。
3: やや遅れている
1)治療効果を評価するためのHIBCH欠損症モデルの構築:Hibch欠損マウスの作製を試み、Hibch exon4に塩基欠失が導入されたマウスを3頭(45頭中)得ることができた。現在この3頭を野生型マウスと交配し、欠失を受け継いだ仔獣の取得を行っている。2)症例のリンパ芽球を用いた細胞内のmethacrylyl-CoAによる細胞障害の評価:低グルコースや、高温(>38℃)で培養する条件下におけるバリンの代謝の亢進を確認するために、指標となる293番目のSerがリン酸化された分枝鎖ケト酸脱水素酵素制御因子(E1α)のpS293-E1α抗体を作製した。3)NACの治療効果の評価系の構築:予備実験として、本症と同じくバリン代謝異常症であるECHS1欠損症患者の皮膚繊維芽細胞を用いて、NACの効果を解析した。ECHS1患者の皮膚繊維芽細胞をバリン(+)、グルコース(-)培地で培養すると細胞が凝集した。しかしNACを同時に加えると、その細胞凝集が抑制された。
1)症例のリンパ芽球を用いて、低グルコース培地や高温(>38℃)での培養条件下での細胞内のGSH量、ミトコンドリア膜電位、ATP含有量の異常、電子伝達系酵素の活性、細胞死を解析する。2)1)の培養条件にNACを加え、NACの治療効果の評価を行う。3)本症のモデルであるHibch欠損マウスの作製を引き続き行う。Hibch欠損マウスが得られれば、ホモの欠損マウスの表現型(胎生致死や、発達の遅れなど)の解析を行う。4)ホモの欠損マウスHibch欠損マウスが得られれば、Hibch欠損マウスの初代神経培養細胞を用いて、計画1)2)を行う。
今年度は実験助手の雇用を行うことがなかったので、人件費・謝金が使用されなかった。
物品費として、1)Hibch欠損マウスの作製及び維持の費用、2)リンパ芽球などの培養をするための費用、3)細胞染色や活性測定に必要な試薬や器具の購入費、人件費として、実験を補佐する研究補助者の人件費、旅費として、研究成果を学会や紙面で発表するための費用を予定している。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
J Med Genet.
巻: Oct;52(10) ページ: 691-698
10.1136/jmedgenet-2015-103231