研究課題/領域番号 |
15K09617
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研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
高野 知行 滋賀医科大学, 医学部, 准教授 (80236249)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 皮質形成異常 / てんかん / 多小脳回症 / GAP43 / 介在神経細胞 |
研究実績の概要 |
本研究は、皮質形成異常におけるてんかんの発症年齢を規定する要因を明らかにするとともに、それらがてんかんの難治性とどのような関連性を有するかを、多小脳回症のモデルラットを用いて解析するものである。Growth-associated protein 43 (GAP43) は神経突起の成長円錐及び前シナプス膜に局在するリン酸蛋白で、神経突起の伸長やシナプスの再構築に重要な役割を担っている。本年度においては、興奮性神経細胞障害により惹起される多小脳回症のモデルラットを作成し、多小脳回の形成に伴う神経回路の再編成を調べるため、大脳皮質におけるGAP43の発現を免疫組織学的に検索した。 実験動物は生後1日目のWistarラットを用い、右前頭葉皮質内に3μg (1μl)のイボテン酸を接種し多小脳回群を、1μlの生食水を接種して対照群を作成した。両群について、錐体細胞および介在神経細胞のマーカーとしてそれぞれ非リン酸化ニューロフィラメント抗体 (NPNF)およびparvalbumin抗体を用い、GAP43との二重染色を行った。その結果、GAP43陽性細胞は、対照群では帯状束、および前頭葉と頭頂葉の皮質第VI層とその直下の白質に分布し、類円形の小型神経細胞の細胞体に観察された。多小脳回群では、脳梁膨大後部皮質、前頭葉および頭頂葉の第I- VI層におよぶ皮質全層および白質に広範囲に分布し、対照群に比し有意な発現上昇がみられた。多小脳回群におけるGAP43はNPNF陽性の錐体細胞に比し、parvalbumin陽性の介在神経細胞により多く発現していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究により、多小脳回症のモデルラットにおけるGAP43の発現パターンが詳細に検討され、多小脳回の形成に伴う神経ネットワークの再構築は、介在神経細胞を中心に進展することが明らかにされた。これは、多小脳回症におけるけいれん準備性には、介在神経細胞の分布変容や機能障害が関与する可能性を示唆し、今後の研究の方向性の一端を明確に提示する結果となった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策の第1点目は、多小脳回症におけるてんかん原性発現の年齢依存性の検索である。すなわち、乳児期(2週齢)、思春期(4週齢)および成体期(10週齢)の3群の多小脳回ラットに対してけいれん閾値以下のペンチレンテトラゾールを一定期間連日腹腔内接種し、各脳発育段階における多小脳回症のけいれん準備性の高さを評価する。 第2点目は多小脳回症におけるてんかん発症の病理学的基盤の解析である。胎生期脳障害を契機として興奮性の神経ネットワークが完成されるまでには一連の病理過程を必要とするが、てんかん原性発現に際して最も基本となる病態変化は、今年度の研究結果において明らかにされたように「興奮性および抑制性神経連絡の不均衡」である。今後の研究では、神経細胞の変性と再生過程が、興奮性および抑制性神経細胞においてどのように作用し、それが各年齢においてどのような相違を示すかを、病理学的に解析する予定である。
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