研究課題/領域番号 |
15K09627
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
水野 晴夫 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 准教授 (70363942)
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研究分担者 |
齋藤 伸治 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 教授 (00281824)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ゴナドトロピン分泌低下症 / hCG-rhFSH治療 / テストステロン治療 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、単に先天性ゴナドトロピン分泌不全症男性の遺伝子異常を同定することではなく、遺伝子異常を確定した正確な診断に基づき、精子形成に有利な治療法を検討することにある。症例の蓄積は順調に進み、文章による同意の取得を行い、Ion Torrent PGMによる48遺伝子のターゲット遺伝子解析を行った症例は52例に及んでいる。まだ思春期年齢には達していない症例も含まれてるため、すべての症例で、本来の研究目的である精子獲得に有利な方法を議論するまでには至っていない。 ただ、研究を進めている間に、思春期年齢を超え、二次性徴の発現・妊孕性の獲得を意識しながら治療を進めている症例が徐々に増えてきている。治療開始後まだ時間が経っておらず、現状では精巣の反応性の判断が困難な症例は除外するとしても、Kallmann症候群(KS)の表現型を持ち、精巣の発育、テストステロンの産生までを評価できる症例が増えつつある。CHD7遺伝子変異を有する男性はhCGのみで精巣の発育、テストステロンの上昇を認めた。FGFR1遺伝子変異を持つ男性はhCG6ヵ月間の単独投与では精巣の発育を認めなかったが、その後、rhFSHの先行投与後に行ったhCG-rhFSH治療で精巣容積は8 mL、血中テストステロンの上昇を認めた。また、48遺伝子のターゲット遺伝子解析とTruSightOneシーケンスパネルにても、変異が確認できなかったKS 2例のうち1例はテストステロンの先行投与後、rhFSHの先行投与後のhCG-rhFSH治療に反応した。ただし、別の1例ではrhFSHの先行投与後のhCG-rhFSH治療に全く反応しなかった。現状では、症例数が少なく遺伝子型と効率的な治療法への言及は困難であるが、治療への反応性には個人差が大きいことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
解析症例は順調に蓄積できている。また、Ion Torrent PGMによる48遺伝子のターゲット遺伝子解析を行った症例で責任遺伝子が同定できない患者のうち、トリオ解析を前提にTruSightOneシーケンスパネルにて解析を行った家系は9家系となった。そのうち、数家系では責任遺伝子の候補が指摘できることを考えていたが、結果的には1家系も責任遺伝子の候補さえも指摘できなかった。 また、本研究の目的である遺伝子解析による正確な診断に基づいて、精子形成に有利な治療法を検討することにあったが、現状では思春期年齢以降の症例がまだ少なく、どのような治療をどのような順番で行うのが妊孕性の獲得に有利かについての言及までには至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
例えば、男性であれば15歳を超えても二次性徴未発来の児、すなわち、二次性徴を導入するべき時期が近い症例の集積を行い、遺伝子解析と並行して、治療に対する反応性を評価していきたい。また、すでにhCG単独治療やhCG-rhFSH治療を行っており、臨床的に治療効果をある程度評価でき、かつIon Torrent PGMによる48遺伝子のターゲット遺伝子解析、TruSightOneシーケンスパネルともに変異が確認できていない児では、外注による全エクソーム解析などによって、責任遺伝子を検索していきたい。病原性を持つ可能性がある新規遺伝子・変異が見つかれば、in vitro、あるいはin vivoでの機能解析により、病原性の有無についての検索を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度の研究結果から、臨床的に先天性ゴナドトロピン分泌不全症と診断された症例で、Ion Torrent PGMを用いた48遺伝子にターゲットを絞った解析では、半数程度は異常が検出できないことを報告した。当該年度も同様にIon Torrent PGMでは、責任遺伝子を同定できない症例が多いことが分かってきた。その際、トリオ解析を前提に4813遺伝子を網羅的に解析できるTruSightOneシーケンスパネルによる遺伝子解析症例を増やしたが、やはり、病原性を疑わせる新規遺伝子異常が見つからず、当初計画に組み込んでいた病原性を評価する機能解析を行うまでにはいたらなかったことが、次年度使用額が出てしまった主たる理由と考えている。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究の目的は、あくまで遺伝子異常を確定した正確な診断に基づき、精子形成に有利な治療法を検討することである。理想的には、思春期遅発症として発見され、近日中に治療的対応を迫られる先天性ゴナドトロピン分泌不全症の患者の蓄積を継続していくこと、Kallmann症候群の臨床的診断が確実ですでに治療を行っている児を優先的に責任遺伝子を調べていく。その際、Ion Torrent PGMによるターゲットを絞った解析から、それで異常が検出されなかった際のTruSightOneシーケンスパネルによる遺伝子解析に軸足を移していくために、試薬などの物品費が次年度使用額を使用する額が多くなるものと見込んでいる。全エクソーム解析を外注するべき検体が絞り込まれており、新規原因遺伝子・変異が見つかった際の機能解析、病原性の有無の検討に関しても、次年度使用額の使用が見込まれる。さらに、研究成果発表のための学会旅費、論文投稿にも使用していく計画である。
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