研究課題
てんかん性脳症に対する既存の治療は不十分と言わざるを得ず、発達予後を改善するには病態に基づいた新規治療の開発が必要である。近年、遺伝子解析技術の進歩により、単一遺伝子異常によるてんかん性脳症が同定されるようになった。遺伝子異常がもたらす神経細胞機能障害はてんかん性脳症の病態解明の手掛かりとなり、治療標的となりうる。申請者らは昨年度までにSTXBP1遺伝子変異を有するてんかん性脳症(大田原症候群)患者から樹立したiPS細胞を神経細胞に分化誘導し、病態の一部を明らかにしたことを報告した。さらに、今年度までには、SCN1A遺伝子変異を有するiPS細胞を同様に神経細胞に分化誘導し、以下の病態を明らかにした。今回用いたiPS細胞はSCN1A変異をモザイクで有する女性の末梢血より樹立した。SCN1A変異iPS細胞に加え、正常iPS細胞も同一個人から樹立することにより、遺伝的背景を同じくした両者を比較検討できることが特長である。SCN1A変異を有する細胞は、ドーパミン合成の律速酵素であるチロシン水酸化酵素(TH)の発現が、mRNA、タンパクレベルで対照と比較して有意に上昇していた。さらに、培養液中のドーパミン濃度も変異株において有意に上昇していた。一方でドーパミンニューロン(TH陽性細胞)の割合は両者で差を認めなかった。今回の結果からSCN1A変異がドーパミンニューロンの機能変化を起こすことにより認知障害の発症に関与している可能性が示唆された。ドーパミン合成系はSCN1A変異を有するてんかん性脳症(Dravet症候群)患者の認知障害における治療標的となる可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
現在まで、てんかん性脳症の二つの病型、すなわちSTXBP1遺伝子変異による大田原症候群およびSCN1A遺伝子変異によるDravet症候群について、ヒトiPS細胞神経分化系を用いてそれぞれの病態の一部を解明し、論文報告できている。
これまで用いたiPS細胞モデルに加えて、in vivoモデルで同様の病態がみられるか確認する。さらに、てんかん性脳症を引き起こす別の遺伝子変異についても病態解明を目指す。
残額(684円)はわずかであり、この額で購入可能な必要物品がなかったため。
今後も本研究に必要な経費を適正に使用する。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件)
Journal of Human Genetics
巻: 61 ページ: 565-569
10.1038/jhg.2016.5.