研究開始当初は、複数存在するジストロフィン遺伝子産物のなかでも特にDp40の中枢神経系における機能に重きをおいた解析を遂行する予定であった。しかし2年の研究期間を終えた段階で、Dp40よりむしろDp71に関する成果が顕著になったため、最終年度では手掛かりを得ていたDp71蛋白分解制御機構の詳細をさらに明らかにすべく、Dp71dアイソフォーム安定発現細胞とDp71fアイソフォーム安定発現細胞ならびに、特異酵素や経路特異的阻害剤を用いることで、異なるDp71アイソフォームに着目しつつ、生化学的・薬理学的に蛋白分解機序にアプローチした。 その結果、Dp71蛋白は神経系の細胞内においてプロテアソーム経路依存的に分解制御されており、その分解速度はDp71fの方がDp71dよりも速いことが示唆された。興味深いことに翻訳後修飾されたDp71フラクションがプロテアソーム経路に対して強い感受性を示したことから、翻訳後修飾が分解の引き金となっている可能性が考えられた。脱リン酸化酵素による生化学的検討においてリン酸化がDp71分解制御に深く関与していることが明らかになるとともに、リン酸化だけでなくユビキチン化依存的であることも再構成実験で明らかになった。 将来的な課題としてDp71を制御するリン酸化酵素とE3ユビキチンリガーゼの同定と、それらのモデル動物脳内動態の検証や、DMD中枢神経合併症との関わりを明らかにすることは有意義である。
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