発達障害患者を対象としたゲノム解析研究により、多様なゲノム異常が疾患の発症に関わっていることが明らかになってきた。その多くはシナプス機能に関連しており、シナプスの機能不全が発達障害の本質であると考えられるようになってきた。ただ、ゲノム情報からシナプス病態がシミュレーションされていることがほとんどであり、細胞レベルでの分子病態の実態はまだほとんどわかっていない。本研究では、シナプス機能に関連する分子のうち、我々がこれまでに実際に発達障害患者で異常を明らかにしてきたNADE、14-3-3、BSNというBDNF伝達系の分子に着目して、ヒトiPS細胞から分化誘導した神経細胞レベルでの病態解析を行い、分子伝達機能やその病態を明らかにすることが目的である。BDNF伝達系はシナプス前膜機能に関連しており、mTOR inhibitorによる治療効果が期待できるのではないかという仮説を立て、その検証を試みた。まず正常ヒトiPS細胞に対してCRISPR/Casシステムによるゲノム編集を試みた。しかし、ゲノム編集を行ったiPS細胞を複数クローン樹立することができなかったため、当初計画どおり、次にsiRNA による部分的・一過性の遺伝子ノックダウンによる方法を行った。具体的には神経細胞の樹状突起におけるspineの密度を計測した。その結果、神経分化誘導効率が低下し、spine形成が低下することが示された。次にこの状態をmTOR inhibitor等の投与によって上記所見がレスキューできるかどうか検証中である。結果が得られ次第論文投稿する予定である。
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