研究実績の概要 |
骨芽細胞の形質膜および基質小胞の膜上にはⅢ型ナトリウム/リン酸 (Na+/Pi) 共輸送担体であるPit-1やPit-2が存在する。基質小胞におけるNa+/Pi共輸送担体は、Piの取り込みにより骨格の石灰化に寄与すると考えられている。一方、細胞外Pi濃度の上昇は、Pit-1を介して細胞内にシグナルを惹起し、遺伝子発現変化をもたらす。今回、ゲノム編集により作製したPit2欠損骨芽細胞株を用いて、基質小胞性石灰化および骨芽細胞機能におけるPit2の機能について解析を試みた。分化能を有する骨芽細胞系細胞株MC3T3-E1 Subclone4にCRISPR/Casシステムを適用することにより、Pit2ノックアウト(Pit2-KO)細胞を樹立した。Pit2-KO細胞ではPi取り込み能が減弱していることを確認した。3 mM Pi存在下で8週間培養したところ、Pit2-KO細胞もコントロール細胞とほぼ同等の石灰化を示した。次に、細胞自身へのPiの作用を検討した。Pit2-KO細胞およびコントロール細胞を1、4、7 mM Pi存在下で48時間培養することにより、短期的なPi刺激が遺伝子発現に及ぼす影響を検討したところ、いずれの細胞においても48時間の7 mM Pi刺激によりDmp1およびFgf2の発現が上昇した。また、Pit2-KO細胞およびコントロール細胞を1, 4, 7 mM Pi存在下で24時間培養し、細胞内外のATPを測定した。その結果、細胞内ATPには明確な差を認めなかったが、すべてのPi濃度において、Pit2-KO細胞では細胞外ATP濃度がコントロール細胞に比し上昇していた。以上の結果から、Pit2は基質小胞性石灰化においては必須ではないが、細胞自身の機能には実質的に関与していることが推察された。
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