研究課題
自施設および国内の小児内分泌・糖尿病診療施設との提携で臨床的に単一遺伝子性糖尿病が疑われる症例、特に小児期発症例を集積し、遺伝子解析を行ってきた。平成28年度末で検体数は475例(うち新生児糖尿病89、MODY型糖尿病386例)となった。これらについて、既知遺伝子のリシーケンスで、262例について既知の遺伝子変異を同定した。いずれのタイプについても、我が国最多の実績となった。新生児糖尿病は10-50万出生に1名の極めてまれな疾患であるが、遺伝子解析と臨床情報を組み合わせ、日本人症例で、ABCC8またはKCNJ11変異を持つ患者については87.5%でスルホニル尿素剤でインスリン離脱が可能で、重症例の神経症状や脳波所見も糖尿病と同時に著しい改善を認めること、また変異型によっては無効な症例も存在し遺伝子検査が治療方針決定に極めて有用であることを報告した(Hashimoto Y et al. Pediat Diab 2016, Sep 30)。MODY型糖尿病においては、変異同定率38.2%で、従来のMODYの概念と異なり、家族歴を持たない症例が約13%存在すること、また従来知られているMODY遺伝子のほか、新生児糖尿病と重複するKCNJ11, ABCC8遺伝子変異を持つ症例、また我々が昨年度見出した6q24インプリント異常をともなう症例が6%程度存在することを明らかにした。変異が見つからない症例では両親に糖尿病をもつものが多いこと、過体重例が多いことなど若年2型糖尿病に一致する特徴があることを明らかにしたが、これら症例において有意に母系遺伝例が多いことを見出した。現在、今までのリシーケンスで変異が同定できない症例のミトコンドリアゲノムの次世代シーケンス解析を進行中である。
2: おおむね順調に進展している
当初計画で次世代シーケンサーによる既知遺伝子リシーケンスパネルを作成して、症例の解析を進めることとして施行してきたが、既知遺伝子コーディング領域や調節領域の変異は大きな割合を占めないことが明らかになってきた。そのため、ターゲットを既知インプリント遺伝子、ミトコンドリア遺伝子に向けて前者では昨年度染色体6q24関連MODYを初めて同定して報告した。今年度は新生児糖尿病において、これら遺伝子変異解析の結果が臨床的に大きなインパクトを持つことを証明して報告した(Hashimoto Y et al. Pediat Diab 2016, Sep 30)。また、多数例を解析することにより統計学的処理が可能になり、変異陰性例の臨床的特徴を明らかにできた。次年度で、この特徴をもつ遺伝子変異が大きなインパクトを持つことを証明できる可能性がある。
新生児糖尿病については、既知遺伝子解析で変異同定できなかった症例のうち、特殊な表現型をもつ少数の症例についてtrioでのエクソーム解析を行い、新規遺伝子の同定を試みる。MODY型糖尿病については、既集積症例のうちリシーケンスで変異が同定できなかった症例について、臨床情報との関連を引き続き統計学的に解析し、ターゲット遺伝子の特徴を明らかにする。ミトコンドリア遺伝子については、その全長を2フラグメントでPCR増幅することが可能となったため、この系を用いて症例の次世代シーケンス解析により頻度の低いヘテロプラスミーの同定を行う。
当初予定より安価で購入できた物品(試薬)があり差額として4045円が発生した。
次年度の物品(試薬)の購入費として使用する。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
Pediatric Diabetes
巻: ― ページ: ―
10.1111/pedi.12447
Clin Pediatr Endocrinol
巻: 25 ページ: 99-102
10.1297/cpe.25.99