研究課題
本研究は、出生コホート研究によって発症を観察できる乳幼児アトピー性皮膚炎に焦点をあて、microRNA(miRNA)発現の個体差による遺伝子転写後制御の違いから、乳幼児アトピー性皮膚炎の新たな発症病態を解明することを目的としている。平成28年度は、出生コホート研究のサンプルを用いて同定した「アレルギーハイリスク児において1才時のアトピー性皮膚炎発症と関連する臍帯血miRNA(ADmiRs-HR)が、アトピー性皮膚炎の病態に重要な細胞において、遺伝子発現および細胞機能に関わるかを検討した。ADmiRs-HRの一つであるhsa-mir-144-3pは、1才時にアトピー性皮膚炎を認める児の臍帯血血清において、有意に発現が亢進しているmiRNAであることを、先行研究において見いだしている。このため、hsa-mir-144-3pの標的遺伝子は、1才時にアトピー性皮膚炎を認める児において、発現が抑制されることが予想される。アトピー性皮膚炎の病態に重要な細胞として皮膚角化細胞を選択した。また、hsa-mir-144-3pの標的遺伝子として、細胞内脂質輸送に関わるABCA1を選択した。皮膚のバリア機能には、細胞外へのコレステロールが重要であることが、過去の報告で示されている。このため、ABCA1の発現抑制により、細胞外へのコレステロール放出が抑制され、皮膚バリア機能が低下する。実際に、皮膚角化細胞へのhsa-mir-144-3pの導入実験では、ABCA1の発現低下と、細胞内コレステロール蓄積(細胞外コレステロール放出の抑制を示唆する)を認め、アトピー性皮膚炎の病態におけるhsa-mir-144-3pの関与が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度は、皮膚角化細胞を用いたmiRの機能解析により、乳幼児アトピー性皮膚炎の発症の病態における、臍帯血microRNAの関与を示唆する有意義な結果が得られた。この点において、研究の進捗状況は、順調であると評価している。一方で、解析をおこなうサンプルは、千葉大小児病態学が行っている出生コホート研究から得ているが、疫学データの解析に難航しており、幼児期の臨床情報との関連の解析はあまり進んでいない。
皮膚角化細胞を用いた解析からの結果は、乳幼児アトピー性皮膚炎発症の病態の解明に、極めて重要と考えられるため、最終年度である平成29年度は、さらに角化細胞の機能変化に焦点をあてて解析をおこなう予定である。
2016年度末の時点において、細胞機能解析の予備実験をおこなっており、使用する試薬の選定中であったため
使用する試薬が決定してから購入する予定である。
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Current Allergy and Asthma Reports
巻: 16 ページ: 67
10.1007/s11882-016-0648-z