研究実績の概要 |
炎症と凝固は従来から密接な関係があることが知られている。古典的な急性炎症は、発熱・発赤・腫脹・疼痛の4徴候を特徴とした感染に対する生体反応であったが、近年、癌を含めた生活習慣病の多くが、慢性炎症と関連があることが示されてきた。しかし、この慢性炎症は、従来の急性炎症の概念では十分説明できないものであった。今回、慢性炎症のモデルとしてマウス慢性GvHDの系をもちいて、トロンボモジュリン(TM)投与による慢性炎症と凝固との関係を研究した。TM投与群では慢性皮膚GvHDが明らかに改善した。ダルテパリン、活性化プロテインC投与群ではTM投与による慢性皮膚GvHD改善効果は認められず、TMによる慢性皮膚GvHD改善効果は、TMのもつプロテインC活性化機能や抗凝固活性によらない効果であると考えられた。TMによる免疫機能への影響を検討するために、TM投与群とコントロール群における脾細胞におけるサイトカイン産生能と免疫調整リンパ球亜群の解析を行った。両群でTNF-α、IFN-γ、IL-17A産生能に有意差はなく、またBreg,Treg細胞数にも有意差は認められなかった。以上のことから、この効果は免疫への調整機能によらない可能性が示唆された。慢性皮膚GvHDに対するTMの効果を更に詳細に検討するために、TMのレクチンドメイン(D1),EGF様ドメイン(D2),セリン/スレオニンドメイン(D3)にわけた変異TMを作成し検討することとした。ピキア酵母産生系を用いて、D1,D2,D23ドメイン変異体が作成できたため、今後、各種変異体を用いて慢性GvHDに対するTMの効果の詳細な機序を検討する予定である。
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