研究実績の概要 |
今回の研究では、研究代表者らが2003年に提唱した原発性免疫不全症であるB細胞特異的高IgM症候群(HIGM)であるHIGM4型の病態解明および原因遺伝子の同定とその機能解析により、ヒト免疫グロブリンクラススイッチ再構成機構を解明することを目的とする。原因遺伝子の同定には既に施行した国内HIGM症例の次世代シークエンサー(NGS)による全エクソン解析の結果を用いる。平成27年度は、既知遺伝子を同定した抗体産生不全患者について10本の論文を報告し、新たに8患者8遺伝子異常を同定した。T細胞新生能を示すTRECの低下例ではV(D)J再構成異常を伴い放射線高感受性であることを想定していたが、活性化PI3K症候群患者8例(PIK3CD: 4例、PIK3R1: 2例、PTEN: 2例) が含まれていた。これらの患者では、NGSによるB・T細胞受容体のレパトア解析、IgV領域体細胞突然変異解析においても異常を認めなかった。そのため、APDS患者では、免疫細胞の老化亢進によるTREC低下であると考えられた。APDS1については、全国で21例を同定し、IgG2の低下は90%に見られた。IgA, IgG3,G4については、半数の症例で低下していた。k患者では、sCD40L+IL10,IL21刺激時のAID転写の低下、IgG2, G4の胚細胞型転写(GLT)、機能型転写(FT)の誘導低下が見られた。平成28年度は、Taqman法あるいはddPCRを用いて、こうした転写産物について検討し、APDSにおけるクラススイッチ異常の機構について検討したい。当初計画にあるNGSを用いたIgS-SHMの検討、IgS-DSBのTaqman法あるいはddPCR法による検討、Sμ/Sεの3D-FISHによる検討についても行う。また、WES解析結果から、新たな原因遺伝子の同定を目指したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1) 全エクソンシークエンスによるHIGM4原因遺伝子の同定:申請段階で同定していた12遺伝子の異常症については、10本の論文にまとめて報告しており、さらに投稿後修正中、投稿準備中である。新たに、8患者について、8遺伝子の異常を同定し (CTLA4, FOXP3, IKZF1, NFKB1, NFKB2, TACI, TRNT1, XIAP異常)、一部については投稿準備中である。それ以外の未同定の患者については、家系分析を加え、SNPchipを用いた連鎖解析も加えて、同定を試みている。 2)HIGM4の病態解析 a) TREC定量、KREC定量とV(D)J再構成についての検討:T細胞の新生能を反映するTREC陰性患者の中に4例、機能獲得型PIK3CD異常症(APDS)患者を同定した。これらの患者では、FACS解析においてもCD31+45RA+CD4+ナイーブT細胞の減少、CD27+メモリーB細胞の減少とCD10+19+20+24++38++移行B細胞の上昇を認めた。また、PIK3R1異常症患者、PTEN異常症患者についても同様の所見を認めたが、B細胞については、IgD-CD27+メモリーB細胞が存在する例もあり、PIK3CD異常症とは若干異なる可能性が考えられた。また、TRECs低値を示したAPDS患者2例で、V(D)J領域の配列解析、IgV-SHMの変異塩基解析をNGSにより行ったが、健常者との大きな違いは認めなかった。 b)定量PCRによるgermline, functional, circle transcriptの評価法の検討:in vitro CSRを検討する際、特に、APDSのようなシグナル伝達異常の際、どこが阻害され、クラススイッチが阻害されているかをみるためにも、germline, functional, circle transcriptについて、刺激サイトカイン毎、各Igクラス毎に検討が必要である。APDS1患者では、sCD40L+IL10, IL21刺激時のAID転写の低下、IgG2, G4の胚細胞型転写(GLT)、機能型転写(FT)の誘導低下が見られた。ただ、IgG1/2、IgA1/2の環状転写(CT)は、配列の相同性が高いため、定量PCRでの検討では、分別することができなかった。
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