研究課題
好中球二次顆粒欠損症(SGD)は、転写因子C/EBPεの異常により引き起こされる、稀な常染色体劣性遺伝の先天性免疫不全症である。C/EBPε変異を有するSGDはこれまで世界で2例しか報告されていなかったが、最近、我々は新たなSGDの成人例(55歳女性)を見出した。本例では、C/EBPε遺伝子のロイシンジッパー領域に6塩基欠失(2アミノ酸欠失; ΔRS)がホモ接合性に認められた。本年度は、この新規変異が病的変異であるか否か、どのようなメカニズムでSGDを発症するのかという点について検討した。その結果、ΔRS変異は、培養細胞において安定的に発現すること、G-CSF受容体のプロモーター活性を促進できないことが示された。さらに、ΔRSは、既報のフレームシフト変異と異なり、細胞内分布やDNA結合能は正常に比べ大差ないものの、相互作用することで知られるGata1蛋白やPU.1蛋白への結合が障害されることが明らかにされた。以上より、ΔRSは、2アミノ酸が欠失するのみのインフレーム変異であるにもかかわらず、他の転写因子との蛋白質間相互作用の減弱により転写活性化能が消失し、SGDが引き起こされることが判明した。本症例の臨床的特徴として、フレームシフト変異を有した症例と異なり、重篤な深部感染症を認めずに55歳まで経過している点があげられたが、この発症機序と関連している可能性が考えられた。これらの知見は、C/EBPε遺伝子のロイシンジッパー領域の重要性をあらためて示すと同時に、SGD発症の新たな分子メカニズムを明らかにした点で高く評価され、国際誌J Immunol誌に掲載された (2015;195:80-86.)。なお、本論文は、当該号である7月1日号のIn This Issueにて、「Zippers Hold Neutrophils Together」として取り上げられた。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、我々が見出したSGD症例の新規変異の意義を明らかにすることで、転写因子C/EBPεの好中球・単球分化における役割やSGD発症メカニズムを理解し、稀少疾患SGDの病態生理をさらに解明することを目的としている。現在までに、患者由来の変異蛋白の蛋白発現、転写活性化能、蛋白質間相互作用、DNA結合能の特徴等を分子生物学的手法にて解析し、国際誌J Immunol. 2015;195:80-86. に報告した。当初の予定通り今年度、患者に見出された新規変異の意義を明らかにしたことから、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
SGD患者は現在も当科外来通院中であり、引き続き、本疾患の臨床像を検討していく。また、患者由来検体を用いた表面マーカー解析等を続け、患者好中球・単球の異常を明らかにする。特に、患者では感染症罹患時に末梢血の白血球分画が単球優位になることが繰返し観察されており、感染症罹患時の各白血球分画の表面抗原の発現も検討する。これまでSGD患者の好酸球については、特徴的な顆粒を持たず、マーカー上も「顆粒球領域のCD16陰性細胞」として認識できないため、好中球と区別することが困難であった。我々は、CD193 (CCR3) とCD294 (CRTH2) に対する抗体を用いることで、SGDの好中球と好酸球の染め分けが可能であること見出しており、SGD好酸球の形態や顆粒遺伝子の発現などを解析する予定である。
次年度使用額が生じた理由として、消耗品であるモノクローナル抗体とサイトカインELISAキットの購入が予定より若干少なかったことがあげられる。
次年度は、患者好中球、単球、好酸球の多数の表面マーカーやサイトカイン産生能の解析等を予定している。生じた次年度使用額は、これらの検討に必要な消耗品の購入にあて、確実に研究を遂行し成果をあげる予定である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 10件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
Cytokine
巻: 80 ページ: 1-6
10.1016/j.cyto.2016.02.008.
J Investig Allergol Clin Immunol
巻: 26 ページ: 63-65
J Clin Immunol
巻: 35 ページ: 280-288
10.1007/s10875-015-0146-4.
巻: 35 ページ: 244-248
10.1007/s10875-015-0144-6.
J Cardiol
巻: 66 ページ: 168-174
10.1016/j.jjcc.2014.09.011.
J Immunol
巻: 195 ページ: 80-86
10.4049/jimmunol.1402222.
Cancer Sci
巻: 106 ページ: 965-971
10.1111/cas.12696.
J Biomed Sci
巻: 22 ページ: 78
10.1186/s12929-015-0184-5.
巻: 35 ページ: 610-614
10.1007/s10875-015-0202-0.
Mol Ther Methods Clin Dev
巻: 2 ページ: 15046
10.1038/mtm.2015.46.